百合籠 | ナノ


『潮江!立花、行方不明!!』


バタンと襖を荒々しく開けて現れたそいつは野沢本人だった。

その時の俺はプリントを全員分回収する事が出来、校門前にいた先生に回収した事を告げ終え庭先を歩いている途中だ。突如として居ないとばかり思っていた襖が開いた時には心臓が飛び出るんじゃないかと思った位にびっくりした。
だけど、それよりも先に野沢が言っていた行方不明と言う単語に、嫌な感じがした俺は野沢に最後に見たのはいつだ?と聞けば、廊下。と短く返ってきた。

それは俺も同じだ。

俺達3人一緒にいた所に先生に声を掛けられた。野沢は実技担当の先生から呼び出し。俺はプリント回収を目の前の先生に頼まれる。
残った仙蔵と言えば、どこで委員会活動をしているかと言う説明を聞いた際、すぐ近くで用具委員会が活動している。それを見学してくる。と言っていた。だから俺達3人は教室前の廊下で別れ、確実の件を済ませる為に散った。
そして、別れて以来、今はどれぐらい経ったのかと思い出せば、自分の体から血の気が引いていく様な感覚がした。空を見上げれば日は高く俺達が別れてから、今のこの瞬間迄に結構な時間がかかっている。
先に用事を済ませた野沢は、仙蔵が向かったと言っていた用具委員会に行ってきたらしいが、どうやらコイツが行った時には委員会は終わっていたと言う。ならば、教室か俺達の部屋で待っているとふんだ野沢がその2つへ向かうもどこにも仙蔵の姿は無かった。

嫌な予感ばかり。

とっくに居る筈の仙蔵が居ない。
まさか?
そんな考えしか脳裏を過ぎらない。


「野沢、他は当たったか?」

『諾。教室、部屋、図書館、何処不在』

「っ!」


俺は近くを探す!野沢は校舎内をくまなく探せ!
俺がそう言えば狐のお面が小さく頷かれ、俺は弾く様に大地を蹴った。

それが半刻前の事だった。


彼方此方探せど探せど、仙蔵の姿はどこにも見当たらない。
そして、走っている内に気付いた。
野沢迄姿が見当たらない事に。アイツの事だろう。半刻も探しても仙蔵が見つからないのならば、それなりの報告がてら俺の元にやってくる筈だ。
本当は俺が野沢を見つけ出してやりたい所だが、アイツみたいに俺は素早くも気配を上手く辿る事は出来ない。だから、野沢から俺を探して貰わないと俺もこれから先の行動に出れないのだ。
そう思えば、途端に自分の無力さを改めて感じた。

走っていた筈の足が可笑しい位にピタリと止まって、それでも頭の中は動き出したまま。

野沢が仙蔵が居なくなった事を言わなかったあの瞬間迄、俺は何事もなく歩いていた。
野沢が既に他の箇所を探しまわっていた間、俺は何をしていた?

誰よりも一番に気付いて、誰よりも早く動いて。
その二番目に俺が居た。

泣きじゃくる仙蔵に一番に気付いた野沢が居て、それに気付いた俺が走りよってやっと仙蔵はこちらへと顔を向けた。
そして、皮肉めいた台詞で遅い!とまた泣く。
野沢は早かったのに!そう言って野沢にしがみつく背中を俺は見るしか無かった。


すまない。

そう言って、手を伸ばした時には既に仙蔵は泣き疲れて寝ていて、この謝罪の言葉はきっと届いて居ないのだろうと思った。
だけど、其処で俺は仙蔵を抱き寄せる野沢の手を見て知った。
俺達の年齢の割に合わない古傷に。
それは手の甲と言ったものでは無く、何故か指先と言った不思議なもの。何故、指先だけに?
そんな胸の内にしか問いてしか居ない筈の声が聞こえたみたいに、野沢の被るお面が此方へと向いた瞬間に胸が鳴った。





『掻き、分ける』







何を?

答えが知りたかった。
仙蔵が居ない事に、仙蔵が悲しんで居る事にそして一番に駆けつける理由を……。




俺はハッと目が覚めたかの様な、不思議な感覚に襲われた。

一体俺は何を考えていたのだろうかと分からなくなるも、視界に捉えた白い野花の存在によりアイツの不健康的な白い肌を思い出した。

そうだ。

仙蔵を……。

だが、足が一歩も先に踏み出せず、広い庭先と生い茂る茂と野花を眺める事しか出来なかった。

この一歩を踏み出した所で、きっと既に野沢が仙蔵を見つけてくれているのでは無いか?既に仙蔵を見つけて、馬鹿文次!!と怒っているのだろうか?

考えれば考える程に縁にハマる。

だけど、そんな中。まるで肩をポンと叩かれたかの様な感覚が、俺の右肩に触れた。
何事かと振り返った先は茂みしかなく、気のせいか?なんて思った俺だが何故かその時、俺は自身の指先を視界へと入れる。

「掻き分ける」

がむしゃらかも知れない。何を?と思うけど、もしかしたら。なんて思えてしまう。
だけど俺は野沢の言った言葉には何か、妙に納得してしまうものを感じ視界に捕らえていた茂みへと向かって行った。
そして掻き分ける。と言う動作で俺より高い茂みの中へと飛び込んだ。
目の前を埋め尽くすのは緑一色で、所々突き出す枝が制服越しに突き刺さり痛いと小さな悲鳴を上げる。
だけど、俺は茂みを掻き分ける事を止めず真っ直ぐ真っ直ぐと腕を伸ばしては進んだ。

どうやって野沢が仙蔵を見つけだすのか分からない。もしかしたら、忍術か何かを使ってるかも知れないけど野沢は言った『掻き分ける』と。
だから俺もやって見た。野沢の言っていた事と絶対違うかも知れない。でも、俺が出来る事なんてこれ位が限界で、それでも俺は胸のどこかでこれが正解なのだと分からない確信があった。

指先に当たる葉や枝がパキリと折れる音が聞こえた。耳元で色んな音が混じり合う。

きっと制服には葉っぱがいっぱい付いているだろう。それでも良い、この足が向かう先にこの指先が届く先に、仙蔵が居れば。そして、野沢が……




掻き分ける為に伸ばした手が宙を掴んだ。
がむしゃらに掻き分けていた先は新たな空間で、俺は空気を掴んだ状態で前へと転んでしまう。
膝をついてとりあえず体への衝撃を和らげるも、掌に感じる砂利に痛いと思ってしまった。
だけど、すぐさま顔を上げてまた掻き分けようとした時だった。



「?!」


転んだ状態で手を付く俺と同じ視線の先、そこで二つの瞳と視線が合わさった。
瞳は暗く濁っていて、其処から浮かび上がっていた感情に胸が締め付けられた。















「仙蔵ぉ!!」















俺はクナイを抜き出し、仙蔵を取り囲む存在へと投げつけた。

















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