長編置き場 | ナノ




見慣れない街並み。月夜に照らされた世界は昔旅行で行った東京を連想させるも、此処はなんと言うか未来的な作りが多い。
見慣れない世界。つい先ほどまで室内に居た俺。
厨二病を発症した事のある俺には、いま起きた状況下を直ぐに理解できた。

いきなりだが俺事名無し(満26歳)男性独身、彼女いない歴×年齢はトリップした。

まさか厨二病を発症した時期である十代真っ盛りなあの頃ではなく、例の病気が鎮まり社会人数年目と言うそろそろパートナーを見つけても可笑しくない年齢なこの瞬間に俺はトリップした。

トリップ。

厨二病発症時の頃の俺にとっては素晴らしい響きだが、残念ながらあの病気とおさらばした今の俺からすればはた迷惑仕方のないものでしかない。

なぜならばあの頃は冒険心に憧れ某フ●イナルフ●ンタジーの様にフィールドを駆け回る願いが達成できると信じていた。だがしかし!俺は社会人!そう!勤める会社の社畜となり、今回はボーナスいくら貰えるのだろうかと頭悩ませる社員の一人でしかない!

ボーナス入ったら最近購入したPCの分割に当てて、次は光熱費更にガソリン代とびっしり書き込まれた帳簿とにらめっこする予定をたてた先のトリップだ。

聞いてないで御座る。

いきなり起きたトリップ。まぁ、これは百本譲って我慢しよう。
だがよ?なんでトリップした瞬間に俺の目の前に、セクロスのプレイであろう裸コート状態な外人姉ちゃんが路上に寝っ転がって居る訳?
辛うじて下着を着ているなら多少なりとも我慢出来るが、ブラ紐も見あたらなければ形の整ったプリケツが素顔晒してるそれはさすがまずい。

あれか?あれか?
のび太さんのえっちー!ガラガラピシャ!な美味しいシチュエーションを与えてくれるヒロイン的な位置の人?
だったら俺やばくね?盥を投げられるor平手打ちパーンorドコ見てんのよ!金的キックのどれかしかねぇだろ?

やべ、俺の息子が役割果たせなくなる。
ちょっとだけ縮こまった股関。いやいやそんな事よりもだ。
今はこの姉ちゃんを何とかしなくちゃならねぇ。
いくらプレイの一環としても裸コート状態で普通路上に投げておくものか?もしかしたらどこか遠くでこの姉ちゃんの彼氏がにやつきながら眺めてんのかもしれねー。
青姦&視姦プレイがお望みですかこの野郎。

女性に何ちゅう事してんだ!と言う怒りを抑えながら、俺はとりあえず横たわる金髪姉ちゃんに近付く。
間近で近付けば、その顔がはっきりとする。

伏せられた瞳を庇うように伸びた長い睫毛。鼻もスラッとしていて、ぷっくり膨れた唇は女性らしい艶を醸し出す。
美人さんだよおい。
流石にこのまま放置してたら、飢えた狼野郎が青姦プレイおっぱじめ兼ねないぞ。急いでどこかの家に避難を………


『おい姉ちゃん、起きれるか?』


出来るだけ肌に触らないようにその肩を揺らす。
ゆらゆら揺れた身体。早く目を覚まして欲しい。でなければ俺はトリップして早々牢屋にぶち込まれかねないイベントに遭遇してしまう。それだけはなんとか阻止したい。

「*〜℃……дぅ⊂〇★¢″」


何言ってるか分からない!

髪質はさらさらの金髪。すらりとした身体。これはどう見ても白人さん!
勿論俺は白人さん好きだぜ!いや、普通に褐色系の黒人さんもアジア系の姉ちゃんも好きだいやそんな場合じゃない。

『姉ちゃん、そのままだと風邪ひくぞ』

家まで帰れるか?

ゆさゆさ揺さぶる。
すると意識が少し戻ってきたのか、むにむにと唇を動かしながら俺へと何かつきだしてきた。
ん?なんぞこれ?


『………鍵?』


ちゃらりと音を鳴らしたシンプルなキーホルダーと輝くシルバーキー。は?なんで鍵?と掌で転がしているとふと差し掛かった影。
なんだよこのやろーと見上げた瞬間にそれはのしかかってきた。

「℃:ヾ!ー〆ーー!」

うぶわっち!

たゆんと揺れた胸が俺の顔面にダイビング。が、そんな事お構いなしと言わんばかりに影は何やら呪文を唱えては沈む。
肉の塊からやっと脱出した俺の目の前には、よだれを垂らしながら寝息を立て始めた例の姉ちゃんがいた。

え?なにこれ?姉ちゃんもしかして酔ってる?

少し顔を近づけてはスンと鼻をならすも、アルコールの匂いは一切しない。
よくわかんねー姉ちゃんだ。
普通の人ならば、面倒事に巻き込まれまいと逃げるように此処から離れるに違いない。

しかし!
紳士の塊であるこの俺が、か弱いいたいけな女性を路上に放置する事は出来ない。プレイ中だろうが何だろうが、目の前で困っている(?)女性を見捨てる訳にはいかんのさ!


自身にもたれかかる姉ちゃんをちょっと退かしては、受けて取った鍵の表側へとひっくり返す。
うん。やっぱり文字読めねーや。
英語やアラビア語でもない不思議な文字。昔やったゲームゼル●の伝説の文字に似ているが、ちょっとだけ文字の跳ね具合が違っていたりする。

街灯がスポットライトの如く俺達を照らす中、俺は近場のビルを見渡す。
見渡せどどこもかしこも高いビルにビルで、田舎者の俺には壮大すぎる世界だ。お?あれか?

手元にある鍵にかかれている文字と、同じ文字が刻まれた看板のビル。此処からじゃうっすらとしか見えねーけど、多分あれであってる筈だ。


「ったく、仕方ねえから、フラグ回収してやるよ」


何かしらのイベントに繋がるかと思われる裸コート状態の綺麗な姉ちゃん。
行き着く先にあるのは天国かはたまた地獄か?

頼むから前者であって欲しいと願ながら、羽織っていた上着抜いた俺はそれを姉ちゃんの上半身に巻き付けてやる。
下半身は流石に不味いだろうから、そこはなんとかこの奇妙な白いコートで隠していくしかない。


『頼むからエロゲー展開だけはやめてくれよ』



未だに目を覚まさない姉ちゃんをおんぶし、俺は夜の道を歩き始めた。















120912


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