《第10話》

いま考えると大失態だったな、と思いますね。

まず持田先輩。一回きりの登場だし(黒曜篇と未来篇で「あーあんな人いたね」レベルでツナの頭に浮かんでたけど)べつにちょっと説教たれても原作には関わりないかな、なんて思ったんだ。だけどまさか惚れらるなんて誰が想像できたよ?

「持田がウザイけど若干いい奴になったぞ!」
「あの持田を叱咤したのが1年の秋山ってやつらしい!」
「だいぶ彼女に惚れこんでるってな!」

原作には直接関係ないとこで騒がれてるけど、まさか校内新聞に載る規模だなんて聞いてないよ!そのおかげで主人公であるツナには同情された眼差しを受けることになっている。
と同時に秋山千尋対持田撃退として花輪さんも話題に上がっているのだ。いいのか、もともと名前も出ないモブだぞ。

さらに感情に任せて山本を説教してしまったのは本当に反省している。ほっといても勝手に骨折して若干スレて結局ツナに助けられたはずなのに私がいらん説教してしまったせいで…。
いやいやだけどさあ、偶然が重なったっていうか予想してなかったっていうか…命を大切にしない発言に後先考えずキレちゃった私が悪いんだけど。
あの事件から山本がよく構ってくるようになったのだ。いつの間にか下の名前で呼んでくるようになったし。私は徹底して彼を山本と呼びつづける。それだけは譲らない。

『山本がさ、私に悪いと思ってよくしてくれるならもういいからね。私、べつに気にしてないから』
「ん?オレだってもう気にしてねーよ?悪いとかじゃなくてさ、オレたちもう友達だろ?」
『(えっ、そうなの?)』




「じゃー今月からおまえらこの席だからな、しっかりやれよ」

「チッ、一番前かよ…」


今日は朝からカレンダーをめくりました。神様、キャラに入れ込んでしまった私が悪いのでしょうか。出来心で説教してしまった私が原因ですか。

舌打ちをして卓上に長い足を投げ出した彼――獄寺隼人が私の前の席になりました。


「……で、後ろはてめーかよ」


なんだその表情。読めない獄寺の感情が読めないよ。


『よ、よろしく』

「よろしくする気はねーけどな」


よろしくする気はないらしい。
まあ私としてもそっちの方がありがたいからいいけど。獄寺の性格上これ以上親交を深めることはなさそうだ。安心して次の教科の準備をしていると――突き刺さる視線。
女の子から突き刺さるあの手のレーザービームとはまた違う。じっとりとしたいやな視線だ。


『……なに、ごくでらくん』

「チッ、…つまんねーな」


ご丁寧に悪態ついて卓上から足を降ろすと、椅子の向きを無視して足を横に投げ出した姿勢をとる。
「ん」と唇を尖らせてまるで不本意のようなかおをした獄寺は手の平をこちらに突き出してきた。


『え?』

「え?じゃねーよはやく感想出しやがれっつってんだ!」

『感想……』

「まさか完成してねーなんて言うんじゃねえだろうな…!」


みるみる不機嫌になっていく獄寺隼人。私はあのことを思い出すと慌ててカバンから数枚のルーズリーフを取り出す。


『や、忘れてない!忘れてないから!』

「……そうかよ」


彼の瞳が嬉しそうに輝いたのを私は見逃さなかった。


「おっせーんだよ感想くらいはやく渡せっつの」


獄寺から借りたオカルト系の雑誌の感想を書いてくるという宿題だ。
ルーズリーフに書かれた文字を目で追いながら悪態つくのも忘れない。
しかしこの獄寺、嬉しそうである。


『いや、遅いって。獄寺くんしばらくダっ……休んでたよね?』


いかんダイナマイト調達って言おうとしてしまった。


「まあ、ダイナマイト調達しにいってたからな」

『(言っていいんかい)』


思わず机に頭を打ちつけそうに。
この帰国子女の前でドリフみたいなことやっても理解してくれないのが惜しい。


「何の話してるの?」


突然降ってきた声に反射的に振り向く。そこには口元に笑みを浮かべるサイヤ人みたいな髪型した男子生徒が――


「10代目!!」


急いで席を立って姿勢を正す獄寺と、呆然としたまま動かない私は対照的だった。


「ご、獄寺くん…秋山さんの前でその呼び方は……」

「わざわざこちらに足を向かわせて申し訳ありません!用事が済んだらすぐに10代目の席に行くつもりだったのですが…!」

「えっいや別にそういうのしなくていいから!!」


っていうか聞いてる!?白目を向いて口を大きく開けた所謂ツッコミ顔を披露してくれた沢田くん。うわー生で見れたーとか暢気に思ってる場合じゃないよ!


「ところでオレに…オレに!何かご用ッスか?」


やたら「オレ」を強調する獄寺。やっぱりなかなかの忠犬根性してる。



「いやあ最近山本がずっと秋山さんの話題出してくるし、獄寺くんも仲よさ気だからオレも仲良くなりたいなーって…」


前に愚痴も聞いてもらったし、と照れくさそうに頬をかく沢田くん。いやいやええええちょっと待ってこの10代目コミュ力はんぱない。京子ちゃん以外の女子としゃべったことないんじゃ………あれ?もしかしてツナと初めてしゃべった女子って…私…あれ?


「10代目ェ!オレ別にコイツと仲いいなんてことありませんから!」

「えぇっ!ちょ、獄寺くん!?」

『そ、そうだよツ…沢田くん!たまたま共通の趣味?みたいな?話があっただけで別に友達とかじゃないから!』

「秋山さんも何言ってんのー!?」


獄寺がツンデレキャラである以上それが本心なのか微妙であるけどこの際それを利用させてもらった。
沢田くんにとっては予想外の展開だろうけどごめんね!


「(い、息は合ってるみたいだけど…)えと、その共通の趣味ってなに?」

『え、なにって……オカルト系の…ね、獄寺くん?』

「違うんスよ10代目!コイツだけ!コイツだけがそーゆーのに興味持ってるんです!オレは別に興味ないんで!つき合わされてるんですオレ!」


えっ隠してるの!?
獄寺ってオカルト好きなこと周囲に隠してるつもりなのそれで!?
ほら沢田くんにもバレてるよ。「いやバレバレだよ…」みたいな顔してるよ沢田くん!

というかこんなことしてる場合じゃないんだよね。これ以上親交深めたら後戻りが難しくなるんだよ!


「あー…秋山さんはどうしてそれが好きなの?」

『私――ごめん!あのさ、私用事があるからもうこれで…!』


カバンを掴んでこの場から逃げだそうとした私の首根っこをすばやく捕まえたのは獄寺だった。


『っげえ!』

「てめー10代目に失礼な態度とんじゃねー!」

「獄寺くん締まってる!秋山さんの首締まってるから!」

「…確かに10代目の圧倒的オーラにビビる気持ちはわかるが、10代目はてめーみたいな奴にもお優しいから安心しろ!」

「『(なんだそれー!!)』」

「ほら、なんでてめーがバカみてーにオカルトにハマッてるのか10代目にお教えろ!」


バカみたいにハマッてるのはどっちだよ…と朦朧とした意識で悪態ついた。


「獄寺くんなにもそこまで…!ていうかまず離してあげて!」


命令として認識した獄寺は直ちに私を離した。
思いっきりむせる私に動揺する獄寺と背中をさすってくれる沢田くん。獄寺おまえ気づかなかったの…。


『……あの、げほっ、えー…ハマッた理由?…だっけ?』

「無理しなくていいけど……」

『(そこまで考えてなかったな…)…その、テレビでやってたから、だよ。うん』


ありきたりすぎるかな。ピタリと沢田くんのさする手が止まった。不思議に思って沢田くんの方を見ると、なにやら附に落ちないような表情をしていた。しかしそれさえも不思議に思ってるような。


「…秋山さん、その…もっと他に理由があるんじゃない?」

『え?』

「いや、なんかなんとなく!そーかなーなんて…!ごめんオレ変なこと…!」


つくり笑顔で取り繕う沢田くん。額にじわりと嫌な汗がにじんだ。


『や、…ほんと。そんなもんだよ』

「そ、そうだよね!みんなそんなきっかけだよね」


じゃ、と今度こそカバンをかけ直して二人に声をかける。沢田くんは未だに変なことを言った自分に対しての疑問を浮かべた表情だった。
部活に向かう生徒に混じって教室を出るとき、すれ違い様に男子生徒から声をかけられた。


「あっ、秋山ー持田先輩がさっき体育館裏に来いってー…」

『また機会があるときにとお伝えください』


先輩の恋シュミゲーム実行計画につきあってる余裕はなかった。

だって、ねえ、あれって
超直感だよね









動揺したまま扉を開けたから、いつもより騒がしく入室してしまった。
ここはいつだって静かだ。
溜めていた息を思いっきり吐いて、乱れ鳴る心臓をぎゅっと押さえつけるように両手をあてた。


「秋山さん…?」


圧迫するようにそびえ立った本棚の間からすこしだけ懐かしく思える姿が覗いた。


『吉田くん…』


そういえばしばらく会ってなかったな。テスト期間前から図書室に向かわなかったもんな、なんて思い出しながら笑い返そうとしたとき、吉田くんはぎょっとしたかおになった。


「な、泣いてるの!?」

『え…?いや、泣いてないけど…』


なんのことだ。目頭は熱くないし目はカラッカラに乾いてる。吉田くんは返事を聞いた途端「よかった」とホッとしたような表情を浮かべる。


「でも、泣き出しそうなかおしてる」


吉田くんは近づいてそっと私の手をとると、いつも私が座る席の椅子を引いてくれた。


「なにかあったの?」

『んーまあ、いろいろ…』


吉田くんは私の隣の席に座ると、優しい声で尋ねてくれた。吉田くんの指定席もすっかり馴染んでいる。
柔らかい笑みを浮かべている彼は続きを促しているのだろうか。


『あー…その、詳しくは言えないんだけど』

「うん」

『このまま流される気はない…けど、いつの間にか飲み込まれそうだなって……考えた』

「うん」

『……びっくりしたの、さっきは。本来の目的を、少しだけ忘れかけてた自分に』


沢田くんの超直感がもう働き始めてるのも驚いたけど、「あっ、私ここに居ていい存在じゃなかった」なんて今更な感想が頭にぽっと出てきたのだ。
吉田くんがこうやって優しく聞いてくれてるから、花輪さんの傍にいると飽きないから、そしてツナや獄寺や山本があんまりにも――ただ一人の人間として愛しく思えるひとたちだとわかってしまったから。


「僕は……詳しく知らないからあんまり下手なこと言えないんだけど、」


この世界に飲み込まれかけていたんだ。


「僕は、秋山さんが信じた道を進んだ方がいいと思う」


この世界の人たちは。私にとって優しすぎる存在だ。
吉田くんの真っすぐな瞳と視線が混じる。
ほんとは、迷ってる、ちがう、私は、


『(――帰らないと)』


私の信じた道は変わらない。変わらせない。
「元の世界に帰らないといけない」これだけはぜったいに曲げたらいけない気がするんだ。


気づかないふりをした。

「帰りたい」と望んでいたはずなのに、いつの間にか「帰らないと」なんて固められた使命になっていたことを。


130313

一度目の原点回帰
と少しの変化
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