俺のクラスにいる佐藤という男は、男女問わず友達が多く先生からも好かれていて、文武両道の正統派イケメンだ。
初めて同じクラスになった。最初は出席番号順の席で、俺の後ろに座っていた。朝登校すれば「おはよう」と声をかけられ、俺が授業を休んだ次の日はノートを貸してくれた。優しくて、普通にいい奴だと思っていた。
体育倉庫に連行されたあの日までは。
「またこうなる…」
「今日も佐々木くんといっぱい遊びたいなって思って」
薬用リップ事件のあと、一ヶ月ほど佐藤を避けるようになった。しかしそんな俺の態度を佐藤は気に入らなかったらしく、俺は一度、佐藤の家に連行された。それから定期的に俺は佐藤家に連行されている。
「遊び?無理やり連行してきたくせによく言う」
「連行なんて人聞き悪いなぁ。俺はちゃんと佐々木くんに一緒に遊ぼうって言ってるじゃん」
「俺の返事聞く前に無理やり連れてきてんだろ…」
俺は佐藤ん家の部屋で、何故かお菓子とお茶を振る舞われている。正直いつもいきなりベッドに押し倒されるから、いつもとは違う意味で緊張していた。
「あ、佐々木くんって紅茶飲める?一応これ、俺のオススメ」
「紅茶は飲めるけど…」
佐藤に出された紅茶は確かに美味しかった。俺はチラッと佐藤のほうを見た。ニコニコしながら俺を見つめている。なんだよマジで。気色悪いな。
「もう一杯どう?」
「え、別にもういらねえ…」
「まあまあ、そう言わずに」
「なんだよ、お前さっきから飲んでねえだろ。お前が飲めよ」
佐藤はさっきから一度もその紅茶を飲んでいない。ティーポットの紅茶を、俺のカップに無理やり注いでくる。こいつ本当になんでも無理やりだな。
「いや、俺あんま紅茶好きじゃないんだよね」
「じゃあなんで用意したんだよ」
「…」
俺がそう言うと、佐藤はまたニコリと笑った。あ、これヤバイやつだ。俺はこの笑顔を知っている。クラスの奴らに見せる爽やかな笑顔とは違って、俺にだけ見せる、よからぬことを考えている時の笑顔だ。
「なぁ、もう帰っていいか」
「え、何言ってんの佐々木くん!さっき来たばっかりじゃん」
「いい、どうせまた変な遊びさせられるんだろ。その前に帰る」
俺が立ち上がろうとすると、佐藤に腕をグイッと引っ張られ、そのまま体勢を崩しかけた。
「ダメだよ。まだ帰らせない」
いつもより少し低めの佐藤の声に、俺は悪寒が走った。佐藤は俺を引っ張り、そのままベッドに放り込んだ。ほら、結局こうなる。
「ちょっと今日は趣向を変えてみようと思って」
「趣向もクソもねえよ…ってオイ!縛るな!」
「ハハ、腕拘束するとあの日のこと思い出すね。体育倉庫での」
佐藤は俺の腕を後ろに縛りながら笑っている。俺も俺だ。抵抗すればいいのに、心のどこかで佐藤に対しての恐怖感みたいなのが拭えないでいる。きっとこいつは他の奴らにバラしたりしない。頭では分かっているのに。
「お前ほんとなんなの、んぁっ…」
「俺は、佐々木くんと仲良くしたいだけだよ…」
「うぅっ…」
俺の股間をまさぐりながら、佐藤が耳元で囁く。性癖歪んでるなぁコイツ。仲良くするならもっと方法あんだろ。
「…佐藤って見かけによらず変態だよな」
「えぇ、そう?男なんてみんな変態だよ」
「うわっ!」
佐藤は俺のズボンとパンツをひん剥き、俺のチンコに直接触れてきた。何度も見られているけど、自分の大事なところを見られて触られる羞恥心は未だに慣れない。
「ふふ、佐々木くん可愛い」
「あぁんっやっやめっ…!」
ふにふにと触られるだけで、決定的な刺激は与えてこない。背中のほうがゾワッとするこの触られ方は、俺はあんまり好きじゃない。
「んぅっ…」
それにしても今日はなんかおかしい。腹の下がそわそわしてくる。
「さ、さとっ…」
「どうしたの?」
「ト、トイレ行きたいぃっ…」
足をギュッと閉じながら俺は訴えた。佐藤は待ってましたと言わんばかりのきらきらした目で笑った。
「そろそろかなって思ってたんだ」
「えッんあぁ、な、なにがっ…」
「佐々木くんが飲んだ紅茶に入れてたんだよね」
佐藤はうっとりとした表情で「利尿剤を」と言った。
「はぁっ!?おまっ、だから飲まなかったのかよっ!」
「あはは」
「何笑ってッうぁっ…」
ダメだ。一度トイレに行きたいと思い始めたら余計に尿意が襲ってくる。
「た、頼むからッこれ外しッ外してっ…」
「だーめ。佐々木くんがどれくらいおしっこ我慢できるか見たい」
「悪趣味なんだよお前っ!」
デカい声出すと膀胱が刺激される。俺は下腹部に力を入れて耐えるが、その間も佐藤は俺のチンコ弄ってくる。こんなの、あと五分ももたねえよ…
「やめ、あんっあぁんっ!トイレッ、トイレ行かせてぇっ!」
「先っぽカリカリするの、どう?」
「あっあっやばい漏れッ漏れるぅうあああああ!!」
手でチンコ押さえようにも縛られてて無理だし、無防備なチンコは佐藤に弄られてて正直我慢の限界だった。
「ごめッごめんなさいっやだっでう、出るぅぅッ!」
もう俺は、粗相するのを覚悟で泣き散らかした。佐藤の前ではプライドなんかへし折られる。なんで俺が謝ってんだよ。
「ひッぎぃっ!」
俺は歯を喰いしばって耐えた。と、思った。
「頑張って耐えたねぇ。でもちょっとだけ出ちゃったよ、佐々木くん」
俺は息を整えながら佐藤を睨む。佐藤は楽しそうに笑っているが、何が楽しいのか全く理解できない。
「涙目で睨んだって全然怖くないよ」
「…っ」
「スッキリしたいでしょ。早く出しちゃいなよ」
「い、いやだ…」
俺が必死に耐えながらそう言うと、佐藤はおもしろくなさそうに口を尖らしている。
「なんで我慢するの?」
「だ、だってベッド、汚れんだろっ!」
「いいよ、これちゃんと洗えるタイプのベッドだから」
「そ、そういう問題じゃ、んうぅ…」
そんなやりとりをしている間も、俺の膀胱は限界に差しかかっている。気を緩めたら出てしまいそうだ。
「ほら、佐々木くん」
「い、いやだぁっ」
「もう、泣かないでよ。俺がいじめてるみたいじゃん」
お前がいじめてんだよ!と言ってやりたかったが、それどころじゃない。
「ふふ、佐々木くん、可愛い」
「うッふぅっ、んぁ…」
佐藤にキスされた。口の中を舌でかき回されて、だんだん力が抜けてゆく。あ、ダメだ、漏れ…
「あっ、あぁ…」
ジョワァッという音と一緒に、下半身が生温かくなってゆく。直前に紅茶を飲まされていただけあって、なかなかの量を漏らした。気持ちよさと恥ずかしさと情けなさで、俺はまた泣いた。
「すごく我慢した分、気持ちいいでしょ」
「うぅ…」
「泣かないでよ〜」
佐藤は俺をあやすように顔を撫でる。
俺はこいつの考えていることが本当に分からない。嫌がらせなのかと思ったら、俺の失禁姿を見ている佐藤の表情は、確かに興奮していたのだ。
「お前なんか嫌いだ…」
「それは困るなぁ」
俺が泣きながら嫌いだと言えば、佐藤は本当に困ったような顔で笑っている。
「ごめんね、シャワー貸すよ」
「…」
佐藤は俺の腕の拘束を外して、風呂場まで連れて行ってくれた。意地悪なのか優しいのか、どっちなんだ。
「じゃあ、着替えはあとで持ってくるから」
「ん…」
でもただ一つ分かるのは、決して自惚れではなく、少なくとも俺は佐藤に嫌われていないということだ。
Fin