※現代



 電車に乗り込もうと思ったら扉におもいっきり挟まった。痛っ。

「何やってんだお前」

 車掌も何やってんだとかぶつくさ言いながらも僕の腕を引いた留三郎は扉の横に陣取る。扉からの風に急かされるよう謝ったらお前は悪くねえだろ、ともっともなことを返された。発車してがたんと揺れた拍子にバランスが崩れたが、留三郎ががしりと押さえ僕と場所を変える。うわあ留さんかっこいい。ナチュラルかっこいい。イヤホンしてて僕と会話する気なくてもかっこいい。
 右手で、痛いとことかないか、と僕の体をぱたぱた叩いてから左側頭部に手を差し入れてくしゃりと撫でた。場所を変える際にぶつけたのを見られていたようである。左手は壁(ちょうど違う列車同士の連結部分なので、僕の後ろは座席ではなく壁だ。)につっかえ僕を潰さない程度に体重を預けていた。女子の気持ちもわかるってもんです。別に僕は潰されてもいいんだけどね。

 何聞いてんのかなーと見つめてたらイヤホンの半分が左耳に押し込まれる。痛い。けど。ていうか。

「なんか、近くない?」

「離れたらイヤホン取れんだろ」

「ああ…いやでも腰の手は何なんで触ってんの」

「触りたいから。腰細えなあ」

 変態か。お前限定な。小声で言ってくすくす笑いあったが、対向車線の電車とすれ違った音で周りの声は聞こえなくなる。左耳の音楽だけが存在する音だった。






100531/ニアリイ

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