※アニメ綾部と漫画綾部/二重人格



 寒い寒い冬が終わりを告げる日が来た。グッバイウィンター。ハロースプリング。それと同時にあいつとそろそろ入れ代わる準備期間である。私は夏が嫌いだから、担当が代わるのだ。中でいまかいまかと待ち望むそいつは夏が好きである。なんでも夏の土は綺麗らしい。ただ暑いだけなんじゃないの、と言ったら冬だって寒いだけだよ、と肩を竦めていた。その通りかもしれない。

「あと少しだからちゃんと用意してて」

 言えば、返事がくる。『君はさあ、たまには夏に出て見ればいいと思うよ』「いい。遠慮する」『そう?』、と頭の中で響いた声がいやに反響する。外には聞こえないこれを、声と呼ぶのかは知らない。誰にも見えないこいつを、人間として良いのかも知らない。それでも確かに私にはどちらもわかることだったし、彼は紛れも無く私だった。手は届かないけれど。今、寒いね、と何気なく呟いたそれは私からしたら声といっても嘘ではない音だ。誰にも聞こえない私だけの。

『やっぱり夏になったら一度君が出てごらんよ、きっと楽しいよ』

「…でも面倒じゃない」

『少しくらいは我慢、ね!』


 次の日、鼻歌が混じりそうな気分で朝早くに目が覚めた私は、そのままの機嫌で顔を洗い障子をさらりと開けた。滝夜叉丸が唸る。風邪を引け!と心の中で唱えてから馬鹿馬鹿しいなあと思った。こいつは馬鹿だから風邪なんか引かない。
 しかし今日はよく冷え込んでいる。白い息が空気に混ざり込んでしまう様を視界に入る睫毛の向こうで見ていた。タンクトップに忍装束に上着を重ねているにも関わらず、冷え切った空気は体の熱を奪っていく。さくりと地面に立てた踏鋤が土を掘り返すことはなく、真っ白い雪がふわりと手応えもどきを作っていた。軽い。手が枯れそうに冷たい。

「あと少しですから、待っていてくださいね」

『…』

 寝ているようだ。(厳密には狸寝いりをしているようだ。)
 まばたきをする度に揺れるはずのない陽炎、もとい蜃気楼が瞼の裏で消えた。寂しい。侘しい。けれど、明くる日、また冬は来る。髪の先が光を透してきらきらと光っていて、目がちょっとだけ痛い。もうすぐ春ですよ。うん。そしたら夏だ。うん。あんまりそいつが適当そうにするから、私はただ、嬉々として色のない春が過ぎるのを待つばかりだ。






100529/忘れるなよこの夏を/忘れたいのこの夏を


※視点差分



 夏なんて来なくてもいいのに。そう思った。けれど彼は僕が出れる夏を少なからず楽しみにしていて、僕はそれを言葉にすることができない。表に出るのが嫌いなんじゃない。世界と触れ合うのが嫌なんじゃない。ただ僕がそちらに出る度になんで僕と彼は同一なんだろうと思う。彼と一緒話せたら、彼に夏を教えてあげられたらよかった。でも僕にはできない。作られた僕にそんな権利はない。回って回ってもう一度戻ってくる季節を、巡る時期を、ただ無心に待つだけ。それしかないのに。

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