明日からあたしとトモミちゃんは敵で、殺し合うんだって。トモミちゃんは結びにくそうなポニーテールを何の躊躇いもなく解いた。と思ったら結んで、と紐を手渡される。これも最後。浮かないようにきっちりとまとめて、大切に結った。忘れないために。この感触を刻み付けるために。
 なんでもかんでも思い出にして綺麗に残すっていうのは好きじゃない。なんだか狡くて賢い逃げ道のような気がして、そうやって引き出しにしまって置くことで目の前を見ないことにしているなんて、嫌。

「だから忘れたフリをするの。明日からの私を別の誰かにするわ」

「今日までの自分はどうするの?」

「…また私に戻ってくるまで補完かしら」

「次の時までね」

「ええ」

 覚えてなかったら、とか野暮なことは聞かない。女の子は空気を読むことに長けているから、聞く必要もない。でも一つだけ聞いてみる。次なんてあるの。なくても作るから。…できる?あたしたちならできるわよ!
 ユキちゃんが膝を抱えたまま言いにくそうに口ごもる。最後なんだからなんでも言ってよ。促したら、少し頷いて顔を伏せた。
 あのね、また会いにいくから、あたし、トモミちゃんと一緒にいてもいい?
 (ああ)(ばか)

「当たり前でしょ、次は絶対ずっとずっと一緒だからね」

「うん、ごめんね」

「なんで謝るのよ…」

 いっぱいいっぱい喧嘩していっぱい手を繋いで、最後に数え切れないくらいいっぱいした約束を交わす。小指と小指をそっと絡めて、ユキちゃんと大事に歌った。こんなときばかり今までのことが思い出されて走馬灯のよう。(まあ今日までの私今死ぬからあながち間違ってもない。)ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます、「ゆび、きった」。終わった直後に指ごと貰ってよ、と言うから少し考えたけど、ユキちゃんの手は綺麗だから貰えないわ、と断った。どうしても欲しかったらまた会った時に貰うから、今はいらない。
 どうしても重くて伝えられない言葉があるのに。言わない。肺が苦しくなってくっと息を止めた。そっと息の根が塞がれて、それが複雑な味でやる瀬ない気持ちになる。甘かったら良かったのに。女の子はずるい生き物だから、私も彼女も何も言えないのだ。

 弱虫でごめんね。泣き虫でごめんね。なんで私たち普通の人じゃないんだろうね。なんでこの道を選んだんだろうね。この時この瞬間、確かに私たちは恋をしているのに。あと少ししたらこんなのなくなってしまうのだと思うと怖くて仕方がない。私たちに選択肢などない。






100512/脆弱な女の子と脆弱な女の子

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