卒業が目前に迫って来ている。前から大木先生のところに邪魔をしている私の制限時間だった。最後の一日。大木先生と私はあまり話さない。沈黙がちくちくとしていて、でも何だか心地良くて。一週間でようやく決心した私は今まで言えなかったことを声に出す。簡単に零れてしまった言葉は、私の中で何回かみ砕かれたんだろう。

「大木先生。ねえ、私と」

 恋しませんか。損はさせませんよ、貴方は私に愛されていればいいんですよ、ねえ大木先生。私と一緒に行きませんか。生きませんか。いかがですか。
 ラビちゃんがぴょこぴょこと跳ねて大木先生の膝に乗っかる。羨ましい、と思った時にはもう遅く、私も大木先生に倒れ込んだ。というか抱き着いた。ラビちゃんは動じず、ふわふわと毛が揺れ、警戒していない耳を後ろに倒したまま。それを緩く撫でる。大木先生は沢山の間を空けた。

「わしは、恋をしない」

「なぜ?」

「これほど面倒でしがらみになるものはないからだ」

 ぴくりと何かを察したラビちゃんがすたこらさっさと外へ逃げる。先生は止めない。追い掛けない。すぐに帰ってくることをわかっているから。フラれてしまったと柄にもなく思った。でもそんなに衝撃を受けることはない。わかっていたから。
 それでも、一瞬だけ、してもいいかって思わせた。お前は天才だ。言う大木先生を振り向かず、とめどなく溢れる涙を手の甲で拭う。しとどに濡れた私の手を大木先生が握ることもなく、そのやさしさとせつなさに声も出さず泣いた。さよなら。そう告げようと思っていたのに、私の口から出たのは全く正反対の言葉だった。先生、またここに来てもいいですか。いつか大木先生が生き絶えるまで、死んでも。片思いしていいですか。いいですよね。それくらいは貴方をくれてもいいでしょう。ね。涙をそのままにじ、と見上げる。小さく弱い肯定の返事は私の心臓を小突いた。好きだ。






100430/うさぎさんとだれかさん

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