※現代



 久しぶりに眼鏡屋(と呼ぶのかしらない)に行った。理由は今の眼鏡だとどうにも見づらくなり、どうせ買うならレンズだけではなく全部買ってしまおうと思ったからだ。何となくレンズだけ買うのは勿体ない気がして。コンマ以下の視力を一まで矯正し、赤の太くも細くもないフレーム。(ちなみに前は銀の細縁だった。)
 さりげなく先生のしている眼鏡と同色にしたのだが、超が付くほど鈍い先生は「赤も似合うね」と言っただけで。そのあと周りにいた上級生やら下級生やらに慰められしまいには父親に励まされた。まあ期待はしていませんでしたが。それにしたって!
 少し緩い形を成したフレームは、視界の枠を定め、赤色で見えるものと見えないものに区切りを付けてしまう。別に見えなくても私は先生が好きですけどね。

「先生が例えその辺の埃だとしても愛しますよ」

「何それ、喧嘩売ってるの?」

「えっ」

 そんな!ことは!立ち上がった拍子にポケットの中からかつーんと携帯が落ちた。冗談、といたずらっぽく笑う先生は小悪魔だ。かわいいけど。すごいかわいいけど。視界にメガネのシャンプーが映る。それがなんだか気になって仕方なかった。

「…眼鏡なんて嫌いですよ」

「そう?私は好きだよ」

「私は土井先生が好きです」

「はいはい」

 私も利吉くん、好きだよ。そっと眼鏡を外して先生を引き寄せる。もう全部愛しい全部欲しい。私の顔見えてる、なんて、見えてませんよ悔しいことに。先生もきっと見えていないんでしょう。眼鏡をとれば何も見えなくなるけど、それでも裸眼で君を見たい。厚さ僅かでも邪魔なものを透して見たくない。でもこれがないと先生をきちんと見ることができなくて、不愉快。コンタクトレンズは怖い。先生は眼鏡が好き。複雑な関係をしている!






100426/それでも裸眼で君を見たい
目艮金竟

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