尾浜勘右衛門を俺は知らない。初めて見る。でも周りの奴らはみんな最初からいたよって言う。何度聞いても問いただせども、最初からいたよ、としか言わない。でもそれをおかしいとも思わずにそうなんだ、と流した。あっちは俺を知っているらしいが俺は本当にこれっぽっちも知らないんだ。記憶力は良い方だから、編入でもして来たんだろうと思う。多分そうだ。そう思ってきた。
 そして今俺は勘右衛門と他愛のない会話をしている。これまたどうしてこうなったのか。共通の話題なんてたくさんある。ので、とりあえず勘右衛門の答えやすい話題を選んで話していた。その中の例がこれだ。


「兵助がこの間さ、豆腐も食わずにぼーっとしてたんだけど勘右衛門何か知らない?」

 「…知らないけど」「そっか…あいつが豆腐食わないなんて異常だから確実に何かしらあったんだろうけど…」具合悪かったんじゃないの、と勘右衛門が言ったのでそうかなあ、と溜息を吐いた。特に気に障ったことはなかったけれど、うっすらと浮かべている表情がいかにも使い慣れていない、といった様でもうひとつ溜息が溢れる。人の顔にこんな不思議な気持ちになるのは初めてなのだ。呼びかけて見る。

「なあ」

「…」

「…勘右衛門?」

 返事も反応もないので顔を覗き込むがそこには貼付けたような笑顔があっただけだった。怖い。何がって、尾浜勘右衛門が。咄嗟に肩を掴んで揺すると驚いたようにえっ何?、と首を傾げる。気のせい?使い古した笑顔は今まで見た尾浜勘右衛門の中で一番脆く崩れやすく、尚も確立していた。
 明確にわかりやすく単純に、壊れていた。






100413/Q2.Who are you?

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