※現代



 バケツをひっくり返したような雨が地面にたたき付けられていた。めんどくさいな畜生。午前中には降っていなかったのに。生憎ながら俺は傘を持ってきていなかったので、立花と潮江に馬鹿にされた後、七松がばっしゃばっしゃと水溜まりを荒らしながら帰るのを目で追い不機嫌な中在家が図書室に向かうのを見送った。俺はただ今絶賛棒立ち中。渡り廊下近くの屋根の下は傘を持っていない生徒でいっぱいだ。纏わり付く空気がじめじめしていて煩わしい。澱んだ空がずしりと世界を押し潰していた。気分が悪い。

 ばらばらばらと散らかったそれに気を取られ、ふつっと思考が途切れる。あめ。雨じゃなくて、飴。渡り廊下の窓から落ちてきたらしく、大半は水溜まりに落ちてしまったが幾つかは弾んだ拍子に屋根の下に避難した。飴?

「あああ留三郎ごめんー」

「おー」

 聞き慣れた声。むしろお前が大丈夫かと尋ねるとひょっこり頭を覗かせ、少し足くじいたけどいつも通りだよー、と手をひらひら振った。「傘ないの?」「ああ」「じゃーちょっと待って、一緒に帰ろ」そんなに急ぐと転ぶ、ああもう遅いかな。あいつの行動パターンなんてすっかりわかってしまっている俺だった。こちらに来る頃には怪我が足されているんだろう。とりあえず散らばった飴玉はかき集めその辺にうろついていた事務員に渡した。(無事だったやつは俺が頂戴したが。)あととりあえず外で待ってるのもあれだったので昇降口に入った。
 騒がしく伊作が階段から昇降口に転がって来たのでよろめく手を取る。ごめん、ありがと。何が?なんでもないー。下駄箱から靴を取り出してほっぽった。のろのろと履いてひょこひょこと俺について来る伊作を見る。不運を自覚しているのかいないのか。してないな。ほら、と背を向けても伊作は首を傾げるのみだった。頭沸いてんのかこいつは。足くじいてんだろ。

「いいの?」

「俺ん家来るだろ。荷物だと思っとくから安心だ。おんぶが嫌なら横抱きでも小脇に抱えてもいい」

 ぱあっと笑った伊作が間髪入れずに俺に飛び付いた。このやろう。ビニールの傘を伊作が持ってその伊作を俺がおぶる。ぱしゃんと水溜まりを踏み締める。日がさしたのでビニール越しに空を見ると、太陽が雲のすき間を埋めている。






100301/僕らを隠してはくれませんの

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