まあた罠をぱかぱか付けやがって、なんなんだ、生物委員に対しての嫌がらせか。罠をはずせばか。そんな感じのことをぶつぶつと、竹谷先輩(今現在で最も絡みにくい先輩)が草むらから飛び出した。
 かっ、と鋤に手裏剣が刺さる。危ないですよ。お前がこんなもんに刺さるわけないだろ。…褒めてますか。いや。「事実を言ったまで」竹谷先輩がたもを肩に担ぎながら器用に左手で飛び道具を投げたので、ばしばし打ち落とし前進した。徐々にスピードを増す。風が頬を擦る。からからと足元の小石が転がる。そのまま体重をすべて乗せて流れるようにたたき付けたら、たもの金具部分で受け止められ、しまったと思う間もなく、振り上げられた拍子に左手が弾かれて鋤から離れた。咄嗟に距離をとる。
 「遅い」。聞こえた声が耳元に近かったので、驚いて鋤を振った。今私の目の前にいたはずなのに。何故。一年の差はこんなにあるのか。くそ。悔しい。
 ごっ、と鈍く低い音が鳴った。鋤が届くより先に、先輩が私の頬を殴り付けた音だ。衝撃のまま倒れ込み、鋤が転がった。口に溜まった血を吐き出してから袖で拭えば、赤と紫の混色が出来上がっていて気味が悪い。立ち上がろうとしたら、先輩の顔が目の前にあってそのうえマウントポジションを取られる。どいてくれませんか。

「どいたら殴り返すだろうお前」

「……竹谷先輩のことはあまり知らないというか、凄く苦手です」

「気が合うな、俺も喜八郎が苦手だ」

 じゃあほっといてくだされば。お前が罠を…。すみません。もう罠外し忘れんなよ、と先輩が言ったけど、罠は外したら意味がないので心の中で嫌ですと思った。
 ふと視線を泳がすと、渡り廊下を歩く久々知先輩と目があって、手を振られたので返したらすさまじい殺気が向けられる。久々知先輩からではなく(だって笑顔で去ってしまったし)竹谷先輩から。睨まれたのでまた殴られるかと思ったら、ぎゅうと一瞬眉を寄せ肩に擦り寄ってきたので傷んでいる髪を撫でた。先輩は犬に似ている。あんなに強いのに嫉妬深いなんて。天は二物を与えてない。
 仕方ないなあ。めんどくさいけど、一応私たちは恋仲なのでね。私は慰めることにした。先輩。

「苦手と好きは別物ですよ」

 何より私が証明している事実が存在していた。






100127/何より私が証明している
盲目

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