どこまで進んだら終わりはあるんだろうか。
 好奇心に駆られる俺の体は、振り向かないままさくさくと先に進んでしまい俺はすぐに迷うけれど、藤内が迎えに来てくれるから大丈夫、心配ない。


「三之助」

「…最近どんどん見つけるのが早くなってるね」

「別に、勘。」

 深い藍の髪がさらりと揺れた(気がした)。いまだ振り向かない俺に藤内の様子なんざ知るよしもない。けれど、忍者として鍛えられた耳は残像とも言えぬ映像を頭に映し出す。ざっ、と、藤内が俺に一歩踏み出した音。物理的な意味でもあり精神的な意味でも俺に近寄って、具合が悪い訳でも無しに鼻がつんとして、目の奥が軋んで、口の中がからからにになったのがわかる。それが不愉快極まりなかった。
 足を動かす気のない俺の名を、どうしようもなく駄目な俺の名を優しくゆったりと呟いた藤内は決して俺に触れることはなく帰ろうと言った。揺れ動いて定まらなくなる自分に、そんな風に呼ばないで、と胸中で食いしばる。まるで愛しいものを呼ぶような声を出すなと叫んでしまいたい。何にも興味がないようなそぶりで振り返らないまま俺はまた歩き出す。

「そっちじゃないよ」

「…こっちに行きたいだけだ」

「帰るんだ、」

「帰りたくない」

「……違うだろ」

 お前は帰りたくないんじゃなくて、迷ってたいだけだよ。任務がこなせないと駄々をこねるみたいにさ、お前は迷いたいだけ。途方に暮れていたいだけ。ただ進みたくないだけだ。ふと顔を伏せると足が震えていた。図星だったのかもしれない。或いは全く違ったのか。間違いを正すとしたら、俺は迷ったままじゃなく、藤内に探しに来て欲しいのだった。あわいこいごころ。許される筈がないと自負していたから、迷って、迷って、出て来ない。
 ねえ、藤内は最果てがなにか知っているかい。教えてあげる。終わりには夢の国があるんだ。永遠の国と不思議の国を足してお菓子の家で割ったような何かがきっとある。そこにたどり着くまでに、俺が迷い子になったなら藤内が探して導く。最高ではないか。帰らないまま、腹黒くて薄汚い大人になんてならないまま、俺達は最初で最後の旅をする。俺の夢見る世界だった。だから俺は知らん顔をして迷い子となる。俺はそれ以外の生き方を知らなかった。






100112/クオレの花園

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