視力が落ちた。委員会で呟いていたら善法寺伊作先輩に「遠くの緑を見ると良くなるよ」。川西左近に「ブルーベリー、だったかな、食べると良いらしいですよ」。最終的に猪名寺乱太郎に「僕が眼鏡お貸ししますよー」だったが乱太郎と僕の視力は違うわけで、というか乱太郎のほうが悪いわけで。とりあえず店を教えて貰い一番安く適当に度が合うのを買った。つまり、今僕は眼鏡をかけている。フレームが太めでピンク色のオシャレ眼鏡。

「なんだそれ」

「…眼鏡だよ」

「そーいうんじゃなくてさ、」

 部屋に上がり込んだ作兵衛がじい、とこちらを見た。読んでいた漫画を一旦閉じて伸びてきた手を叩き落とした。何がそういうんじゃないの。誰よりも先に普通俺に言えよ。め、んどくさいやつだな作ちゃんは。まあ眼鏡はいいと思う、よく似合ってるしかわいい。いつからか少しの嫉妬?を織り交ぜていた声はご機嫌なものになっている。しかし、レンズの向こうはクリアに見えるもののフレームがすごくとてつもなく邪魔だ。邪魔くさい。この数センチあるかないかのフレームが視界を削って、ほら、作兵衛がいつの間にか近付いている、し。そのうえ押さえ付けられ動けないし。
 僕より断然大きい手の平が顎に這った。親指でふにふにと唇を触らないでほしいなあ。今乾燥していて唇切れやすいんだ。とか思ってたらじわりと鉄の味が滲む。こいつ、切りやがった。かずま、なんて呼ばないでくれない。なんかくすぐったい。

「数馬」

「…なあに」

「すきだよ」

「……どーも」

 作ちゃんは嫉妬深いなあと言いそうになってやめた。唇に滲んだ血を作兵衛舐めとり口が塞がれたというのもあるが、言ったら言ったでこれまた面倒な会話になるだろうと予想したからだ。作兵衛は、自分で自覚しているのかしていないのかわからない。その上なんだか喧嘩っ早いからタチが悪い。まあ僕はいまだ殴られたことはない。それより屈辱なことはされたけど。
 仕方ないことにしよう。今沢山落とされるキスを甘受けしていることも、いつの間にやらなけなしのこずかいで買った眼鏡は遠くに投げられていることも(これは後々作兵衛に弁償して貰う)、不運だから仕方ない、ということで。済んでたまるか。






100109/のらりくらりのスゝメ

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