ざあ、ざあ、と言う音が耳に触りました。襖を開けた部屋の中はじんわりだけども暖かく。やっぱり雨は、(忍者としては動きやすいけれど)嫌い、です。
 腕に抱いたびしょ濡れの猫を畳に下ろしてみるとふらふらと歩いてふいっとこちらを見上げました。ああ、黄色い眼がとてもきれい。しかし、トシちゃんに落ちるとは、なんと頭の悪いこと。私がいなかったらどうしたことでしょうねえ。髪を絞りながら(ぼたぼたと濡れた畳を見)猫を見詰めるとなあ、と未熟な鳴き声を漏らし頭をなすりつけます。にゃあ、と真似しながらしゃがんで頭を撫でると特に反応も無く頭をなすりつけました。何がしたいのやら。まだ朝早いから学校へ行く前に一勝負(将棋)やっている滝夜叉丸と三木ヱ門が驚いたようにこちらを見て「喜八郎、なんだその猫」だとか「珍しいな、喜八郎が動物持ってるなんて」だとか「畳拭くのは私かもしかしなくとも」だとか、失礼な。いくらなんでもこんな土砂降り横なぶりの雨の中いたいけな猫を放って置くなんて鬼畜なこと、できる筈がありません。意味がわからん、と滝夜叉丸はため息をついてから、すぐに視線を盤面に戻しました。

「早く捨てて来い」

「怪我してるんだけど」

「知るか。」

 野良猫なんて汚いだけだろう。滝夜叉丸の言うことはもっともなんですが。

「ただいまあ、あ、ねこ!」

 少しの沈黙を破りタカ丸さんが駆け寄って来て喉を撫でれば、猫は気持ちよさそうに目を細めました。喉をごろごろ。猫が喉を鳴らす理由はいまだにわからないようで。(私は無意識に甘えようとしているものだと思っております。)(そうだったら猫は随分わかりやすい動物になりますね。)

「ねこ、かわいいねえ綾ちゃん」

 ぱちりと音がするくらいの瞬きをタカ丸さんがしました。何故か。わかりません。しかしこれでもかというほどにびっくり、驚愕している表情でようやく口を開きました。

「…なんで泣きそうなの綾ちゃん」



「、え」

 うそ。咄嗟に目元を押さえました。ああ、どおりで視界が。

「滝、綾ちゃんいじめたの」

「いやいやタカ丸さん濡れ衣です」

「三木?」

「今まで話してなかったにも関わらず私が出て来るとは。違います。というか滝夜叉丸ですよ」

「三木ヱ門お前えええ」

 ぎゃあぎゃあ喚く滝と三木をバックにタカ丸さんがじい、と無垢な目で私を覗き込むのでいたたまれなくなって膝の上に乗っている黒い猫に視線を固定しました。きっと私の表情はわかられているんでしょう。自分ではわからないけれども。
 泣いてない、と言ったらタカ丸さんがそうだね、と頭を撫でられました。泣いていないと言っているのに。

 猫を腕に抱いたまま障子を開けて空を見れば今にも押し潰されそうな灰色。ごろごろ鳴る空の喉。雨は止まないようですね。






091231/泣きたがりの猫

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