ふわふわした感覚にずきりと頭が痛んだ。手に持っていたあいつの手は離してしまって、いつからか知らないがもう肺に酸素は届いてない。呼吸する代わりにおさまらきらない青が体中を満たすのがすぐにわかった。きらきらに光ってる太陽とそれを乱反射する透明が交じっている。吐き出した二酸化炭素がこぷりと気泡を作り遠ざかる。届かなくなる。そう思っていたら、ようやっと俺を見付けたあいつが手を伸ばすのが見えた。反射的にそいつの体を抱き留める。
 あいしてるを貪るような口吸いを受け止めて、空気を望んだ。何処へ行く気だったんですか!口だけで叫んでいるのが見て取れたので、首を僅かに横に振る。わからないくらいに僅かに振ったつもりだったが、こいつは見抜いたらしく俺の体を抱き込んでいる腕に力が入った。どこにもいかせません、いかないで。
 ん、と一拍置いてよくわからない(わかりたくもない)ことに気付く。気付いたけど、聴覚が麻痺していて、意味もなにもかもに集中できない。それが本当に聞こえたのかさえも。視覚に頼って周りを見渡せばただ暗闇で、水槽の中に似ているとぼんやり思った。青に少しだけ透明がこぼれる。涙腺が、馬鹿になったみたいだった。でも目の前のこいつも同じらしい。歯を食いしばってから体を離して、そっぽを向いてしまったから。太陽が俺の邪魔をしたけれど、差し出された手はわかった。ぐうっと心が苦しくなる。胸が締め付けられる。(ねえ)(きて、ください)泡の中でこだまするそれが本当に聞こえたみたいな幻聴に不甲斐なくも涙した。

 手を、伸ばした。知らない内に取ってしまっていた。帰りたくなんてない、戻りたくもない。なのに俺の手はこいつの手を握っている。しっかりと。力を入れてしまおうかとも考えた、けれど力は入らない。背中を見つめる。傷はない綺麗な肌だ。ああどうしよう。戻りたくない、でも戻りたい。青の中は寂しい。こいつがいないから寂しい。だからこいつも沈めばいいんだと提案した昨日の俺はどこで間違えたんだろうか。こいつは青より緑が好きなことを失念していた。徐々に光りが強くなる。体が浮力とそいつの腕にもつれるように上がる。最後に吸い込んだ青は俺の喉に突っ掛かり苦しくなった。

 いつまでもどこまでも深く潜って溺れたいと今でも思っている。でも、やっぱり地上でいい、こいつと落ちて行けるなら。






091224/溺れて青に死ぬの沈むの

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