※アニメ綾部と漫画綾部



 綾部喜八郎が死んだ。僕も綾部喜八郎だけど、僕じゃない、僕のような彼が死んだ。彼の死に際は見てないけれど、捕まるくらいなら、と自分で首を撥ねたらしい。彼らしいにも程がある。学園では上級生にしか伝わっていない。下級生には八ツ橋に包んだよりも優しく甘い嘘を与えてあるのだろう。彼は気分屋だからいなくなったことに誰も興味を抱かなかった。上級生も、特に反応はなくて僕は少しだけうんざりする。
 ずっと閉じ込められていた僕の部屋の戸が開いて学園長の部屋に連れて行かれた際、沢山の間を置いて綾部喜八郎になってくれと学園長が言った。名前を間違えることはなく。少しの苛立ちと優越感が交じった何かを味わってからゆっくりと口を開く。背後に見える先生方は険しい表情で僕の様子を窺っている。そんなに警戒しなくても、何もしないしどちらにせよ僕の方が実力は上なのに。そんなのを飲み込んでから声帯を震わせた。良いですよ。僕は事勿れ主義だし、来るもの拒まず去るもの追わずですから。きちんと綾部喜八郎になりきって見せましょう。そう笑顔で答えると学園長はすまない、と頭を下げた。何に対しての、すまない、なのかはわからない。後ろにいた先生たちは何も言わなかった。僕も何も言わなかった。
 ぼさぼさだった髪の毛を櫛で解かす。そういえば、彼はあの戦輪の子と同室だったなあ。同室にならなければならないとなるとめんどくさい。ただひたすら喋らないという手もあるがそんなぎすぎすした関係にはなりたくない。髪を結わいていつも笑顔だった表情を消す。毎日これは、ちょっときつい。弱音とか言ってる場合じゃないけど彼が一緒に笑ってくれればいいと癖になってしまった愛想笑いが少し手間を取った。手鋤を手にとってぎゅっと握る。ふ、と目を閉じて暗闇に耳を傾ける。どくりと心臓が鳴っていた。鳴らないで、動かないで、ただ僕という綾部喜八郎を生きながらえるためだけの心臓になって、綾部喜八郎にどうかならせてほしい。僕はずっと君になりたかった。こんなのは望んでなかったけれど、紛れも無い事実として、僕は君になる。






091217/動くな心臓

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