※吸血鬼



 どくどくと歯が血を待つみたいに疼く。まるでそこで心臓が鳴るような、はたまた震えるような、そんな感触に身震いをしてから私は土井先生を睨んだ。こちらへ近付かないでという意味合いで。それが先生に伝わるわけがないと言うより伝わった上でわざとこちらへ来るような気がする。気がするんじゃなくて本当に来るから困る。

「りーきちくん、」

「なんですか」

 じりじりとこちらへ寄る土井先生との距離を保ちながら応えると、にこりと無邪気に笑った。かわいいけども、油断するとすぐ捕まるんだよなあ。この人すばしっこいから。
 と考えた時点で油断していた。


「最近全然吸ってないけど大丈夫かい」


 ず、ときぬ擦れの音がした時にはもう遅かった。だんっと勢いよく畳を踏み締めた先生は私が反応するより早くに私の足首を押さえつけぐいっと思い切り引き、そのまま背中を床に着いた状態の私に跨がった。跨がっていた。人間ではない私より速く動き、人間ではない私の痛いところを突き刺したのだ。じんじんと痛む背中は腹に乗る先生を見てれば気にならないから良いものの。
 利吉くんはお腹が空かないのかな。…そんなことは。じゃあ私以外から食べているのかな。絶対ありえません。じゃあ何故。君は私の血を吸わないの、と土井先生が私の首筋に顔を伏せる。

「そろそろ死んじゃうよ」

「わかってます」

「吸って」

「…ですが」

「吸いなさい」

 唇に土井先生の冷たい肌がするりと触れて言い表せない気分になった。あえて言うなら空腹とも、そして欲情とも取れるような、そんなもの。先生が引くことなんて皆無に等しいからゆるゆると口を開け痛くならないように肌を舐める。久しぶり、だ。きめ細かい肌を舐めるだけで十分な気もするけどそれじゃあ納得してくれる筈もなく…まどろっこしいなあ。
 いただきますよ、と声をかけたらびくんと体が震えた。首が弱いのは知っているけど、大袈裟な気もする。おさえているようだけど。
 そおっと歯をじくりと肌に立てた。じゅ、と少しずつ加減しながら枯渇した喉を潤わせる。甘い。美味しい。渇望した血。あと良い匂いだったりキューティクル欠乏の髪だったり、全てが私の神経を逆なでする。性的な意味で、と付け足せば何故私があまり吸わないのかお察しいただけるだろう。本当に、こちらとしては困るというにも関わらず先生はずるい。

「利吉くん」

「なんですか」

「おいしいかい?」

 少しだけ離れて先生を見つめれば何故だか瞳が潤んでいた。から瞼に少し唇を寄せる。おいしいですよ。ごちそうさまでした。そう言ったら先生は心底嬉しそうな笑顔を浮かべて私を飲み干してもいいんだよと呟く。聞かなかったふりをして私は先生に噛み付いた。お仕置きである。






091111/渇望

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