豆腐なんて、大嫌いだ。 綾部が遊びに来たとき豆腐食べてたら「すみません失礼しました」ってどっか行っちゃうし、豆腐の説明してたらいつの間にか綾部いなくなっちゃうし、最悪だ。最低だ。災害だこんなもの。嫌い。そう言いながらも今豆腐を持って綾部を探しているわけだが、持ってることに意味などない!強いて言うなら綾部の目の前で叩き潰して綾部が一番大切アピールをするとかでは、ない!良い子は真似しないように。 肝心の綾部が見つからないまま数刻がたち、豆腐の表面が乾燥してきた頃、 「う、わあ!」 結ばれた草に足を取られ転んだ。豆腐が。宙を舞って、前方にある穴に落ちる。うそだろ。 「完璧な計画が…」 「私に豆腐をかける計画とは。」 「え」 ひょいと足を抜いて穴を覗き込めば頭に豆腐の残骸を乗せた綾部が落ちていない豆腐をぱくりと摘む。仮にも落ちたものを食べるなんて、お前、とか言ってる場合じゃなくて。まずは。 「痛くなかったか!?」 「そんな、私豆腐の角に頭ぶつけて死ぬような人間じゃありませんよ」 くすりと嬉しそうに笑ったあとに、綾部がそっと手を伸ばす。その手の出し方と、何から何までに目が奪われて、ぱちりと瞬きをしてついその手を掴んだら、まあ当たり前のように綾部はそのまま手を引、いた。ぐちゃりと豆腐が手の下にあって、気持ち悪いと思ったけどそれより押し潰してしまった綾部!無事か! すみません、豆腐、駄目にしてしまい。いや、それは俺のせいだから、つーか、痛いところないか。…ああ、ありませんよ。ほっと息をついたら綾部の口許がぼそぼそと動いた。全く聞こえなかったので俺に伝える言葉ではないらしいが、とりあえず首を傾げる。 「…、すみません」 「…は?、っ」 「すき、です」 俺は、豆腐を嫌いになるべきか好きにままでいるべきなのか。とりあえず今、口にふわりと広がる豆腐の味に俺は赤面するばっかりだった。 091002/イチゼロゼロニイ |