酸素を吸い込むのがえらく苦しくて一瞬息を飲んだ。腐るほど赤い花びらがばたばたと胸から溢れ返る。南蛮には派手な花が沢山あるらしいけど、これほど鮮やかな赤はないだろうなあ。矢先に黒ずんでいくのはいただけないけども、だからこそ一時の赤が映える。夕暮れのむせかえる橙に酔いしれていたらまたたきの間にこぼれる檜扇の種子に似た常闇に現が持って行かれるようで、嗚呼、噫、不愉快。花に溺死するみたいだ。沈黙でもないのに、静か過ぎて耳鳴りがする。
 ぐしゃりと踏み締める音がした。「先輩」目を開ければ花束と言えそうにない束を手にしている綾部が横目に入る。背景が明る過ぎて、綾部に影がかかり露草に染まっていて、綺麗だ。あやべ、と暫くぶりに声を出したら、それは思いの外頼りない。声が出ない(出てるけど)、まるでプリムラに埋もれていた。
「何死にそうな顔を。この花が見えますか。」
「秋桜…。」
「御名答。」
 花のような薄い笑顔を浮かべ、綾部は沢山の花の塊を辺りにばらまいた。御名答なんてとんだほら吹きである。紫と桃と白とその他もろもろによって構成された中に姿はあるものの、少ない。一番に目に入ったのが秋桜だったのだが、改めると彼岸花(次いで芙蓉、)の方が目につくだろう、馬鹿か俺は。声が出てたなら叫んだろう。誰か、私はまだ生きてますか、私は違和感を感じています、と。もしかしたら自身が花ではないかとか。綾部の目が赤いとか。これは今事実を並べたけど、前は違った気がする。例えば。菫だったような、気もする。
 溢る赤い花びらは留まることを知らず空気にさらわれていった。それを見送り焦点を綾部に戻す。花びら以上に透き通った赤が細められてこれにてお終い、とでも言うかのように綾部は最後の秋桜と、一緒に髪も握りしめて手裏剣(余談だが綾部は苦無を大きくて邪魔だと毛嫌いして手裏剣しか持たない)をくくっている場所に当てた。ざくり。無惨かつ残酷に雌蕊ごと毟られた秋桜の薄い桃と髪を束ねていた紐がぽとりと落ちるのと、そのすぐ後にばっさり手裏剣で切り落とされ風に飲まれる綾部のくすんだ紫が、網膜に焼き付いた。メメント・モリ。死を想え。






090909/花葬

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