※現代 もはや暑いというより熱い。溶けそうというか溶けているというべきか。先生は暑さに弱いらしく私の横で俯せに寝転がっている。そのぐでんぐでんに蕩ける先生を団扇で扇ぎながらみんみんじわじわ鳴る蝉と扇風機の唸りに耳を澄ませた。澄ませるほど静かなものではないなあ。汗でべたべたになった肌が気持ち悪い。 「暑いですね」 「…そう、だね」 冷房あるんだから付けては如何です。職員寮なのできり丸に注意される心配もありませんよ。扇風機が回っているが、確実に冷房を使った方が涼しくなると思うのだけれども。そう言ったら利吉くんは環境問題をご存知ないのかい、と嫌味たっぷりに睨まれた。機嫌を損ねてしまったようで。 からっからに渇いた喉のために水分を取ろうと冷蔵庫から先程取り出したお茶の容器にまとわりつく水滴を指で掬った。こんなくそあついひにお茶、いいじゃないか。(本当はお茶の隣のコーラがよかったのだが、多分炭酸狂の先生に怒られるだろう。)いつからだったかな、先生が炭酸を飲み漁るようになったのは。コップにお茶を煎れ終わってからいつの間に起き上がったのか、ごそごそ動く先生の方を見た。 「…ちょ、土井先生!?何脱いでいるんですか!」 「え、だめ?」 「だめです!」 暑いんだけど、と先生は脱ぐことを止めない。ああ、そんな、はしたない。とりあえずお茶を置いて上に着ていた服を脱ぎ捨てた先生をなんとか止める。下まで脱がれたら、あの、取り返しのつかないこと(性的な意味)になりそうなんでお願いします。Tシャツの下に何も着ないから肌も見えて、畜生。(むらむらする) 「脱ぎたい」 「私がいない時は脱いでるんですか」 「下着くらいは履いてるよ」 なんだと。 脱いでるんですか、ともう一度先生を見やると冗談、と悪戯っぽく笑った。冗談になりません。 「……わかりました。私が全力で扇ぎます」 「いいよ、利吉くんも暑いだろ」 「じゃあ脱ぐな!」 口調ぐだぐだだよ、くすくす笑って先生はコーラに手を伸ばす。血管がうっすら透けて骨張った(私より細いかもしれない)その腕、かなり汗ばんでいた、に唇を寄せてみた。ら、暑苦しいと不平を言われたので渋々離れる。炭酸好きですね、まあね。あまりにも早い返答にこの利吉とどちらが好きですか、と言おうとした口を結んだ。言ったら先生の機嫌を本気で悪くする他ない。 新品だったらしいキャップを早々に開け先生は淵をべろりと舐めた。なまめかしいったらないなほんと。ごぷごぷと2リットルのペットボトルをラッパ飲み。この人の飲み方は人より喉がよく鳴る上によく動く。四分の一いくかいかないかくらいのところでペットボトルを離してぺろりと口の端を舐めた。 「いつの間にか好きになってたんだよね」 ペットボトルをわきに置いてぐたりと背中を私に預ける土井先生に軽く体重をかけバランスを保つ。触れる場所が熱くなる。すっかり温くなったお茶に手をつけ先生の体温を甘受けした。あっついけど、大分あついけど、凄くかわいい。ほんと。 「利吉くん」 「なんですか」 「欲情しないの?」 ごふ、と盛大にお茶を吹いた。いつの間にやらよっ掛かっていた体制を反転させ腰の部分に抱き着かれて…辛抱たまらないんですが。 「…それは、お誘いということでよろしいのですか」 「利吉くんの御望みのままに」 唇を指でなぞってからその指を舐めとると微かに炭酸の味。暑さ、目の前にちらつく先生の汗まみれの鎖骨、ショート寸前の思考回路がどうにかなるにはあまりにも条件がありすぎていた。ぷつん。 090823/真夏日 |