なんだか眠れなくて山田先生の隣を抜け出した。教師とはいえ、山田先生のほうが(実技担当だし)実力は上だからきっと気付かれているんだろうなあ。後で怒られる。悪いのは私だから何も言わないけれど、全ては眠れない私のノンレムがいけない。
 窓に手をかけてくるりと身を翻す。下をうろうろしていると生徒に見つかるからだめ。喜八郎の落とし穴、トシちゃんだったか、も沢山あるから避けるのが面倒なので屋根の上を無音で歩いて(多少は許して欲しい。人間だから。)適当な場所へ腰掛けると、しんと静まる学園に、覚えのある気配があった。

「星が邪魔ではありませんか」

「別に、大丈夫だよ利吉くん」

 邪魔なら私が、気にならなくして差し上げますのに。と背の高い木から枝をしならせ私のすぐ近くに跳び移った利吉くんを見上げる。夜空を泳いで、魚みたいだ。―なんて、思ってみる。なんでここにいるのかなあ。一人になりたかったなあ。言うと利吉くんが拗ねそうなことを笑顔の下に隠したら先生今何か疚しいこと考えているでしょう、と顔が近付く。山田先生に似ているはずなのに何故か(失礼か)綺麗、に分類されるそれをじっとり眺めてからズバリ賞、と指を鳴らした。

「隠さないのも酷いですよ」

「隠したってわかるでしょうが」

「それは、この利吉の得意技ですから。」

「初めて聞いたけど」

「初めて言いました」

 少し笑って世間話をした後に軽くあっさりとした沈黙が広がる。口を開くのが億劫だ。けだるい。あとそろそろ眠い。どろどろした面倒臭さに身を任せていると利吉くんがこくりと唾を飲んだ。好きな人が出来たんです。へえ、ついに春が。今は夏ですが。冗談は良いから話を進めてくれない。はあ、言いたいことはそれだけですよ。自慢か、と思いため息をついたら視線がこちらに向いているのがわかる。なんだ、なにがしたいんだ十八歳。気付かないふりをしてどんな子、と尋ねたらはあ、と息を吐いて教えませんよ、と言われた。これは、また。利吉くん、その子のこと好きだねえ。

「そりゃあ、ねえ」

 流星が瞼を突き抜ける。夢はみないことにしたのだ。






090820/夢はみないことにした
18×25(again)

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