何をするわけでもなくただひたすらに天井を仰いでいた。死にたい。ぷつりと溜まっていた自殺願望の蓋が切って落とされる。ぐちゃぐちゃになって腹の底に沈澱したそれはぐつぐつと煮え切り少しずつ蒸発した。気持ちが悪い。先輩はこれと言って驚いた様子もなく、ぱたりと本を閉じ仰向けにねっころがる私を見下ろした。長い髪が顔にかかってくすぐったい。

「死にたいの」

「はい」

「殺してあげようか」

 にこりと星が散らばりそうなくらいに先輩は笑って私に手を重ねた。何を、するんです。私は何も言わずにその手を見つめる。私のとは、基本は同じなのに大きさも骨のごつさも全く違うそれ。それがぐっと手首を握ったかと思えばするすると腕を辿って私の首に行き着く。
 馬乗りに移動した先輩がじんわり体重をかけてくる。ぐう、と喉が軋んで、空気が吸えなかったけど徐々に息が止まる様はなんだか面白くて仕方なかった。陸に上がった魚はきっとこんな気分なんだろう。宇宙にでた哺乳類はきっとこんな気分なんだろう。首を絞めてる貴方もしかり。甘受けしていたらのろのろ力が抜かれた。

「…」

「…」

「…何か」

「死んじゃうよ」

 殺してくれると言ったのは貴方なのに何を言っているんですか。そう思った。でも先輩の手が僅かに震えていて、余りにも複雑な表情(言い方は他にあったんだろうけど私にはそうとしか解釈できなかった。)をしてだらりと腕の力を抜く。綾部が死んだらさあ、先輩はその複雑そうな表情を引きずりながら笑顔を作り私の髪に指を絡めた。するり。指の間を抜けて幾つかこぼれ落ちたものの手繰られた髪に先輩は唇を寄せ。

「俺が苦しくて死んじゃうよ、」






090818/シニシズム

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