※出会い系 他にはあまり使わない口調を取り繕って作ったメールをひとつのボタンを押して送信した。いってらっしゃい。帰ってくる時はおへんじを貰ってきてくださいね。あ、ちなみに相手は黒髪の男性らしい。ネットって怖いから事実かわからないけれど、私は長髪の女の子、設定である。事実男の子である。暇潰しに相手を構っていただけなのだけれど、これがまた誠実すぎる人だった。メールが少し遅れただけで丁寧に謝ったり、こちらが遅れたら(というかめんどうくさかった)すごく心配した返信が返ってきた。何という。この人斧を泉に落としたら真っ先に泉の精を心配することだろう。そんな彼との待ち合わせを今、していて一時間前から私はここにいるのだ。どうしよう怖い。謝る気満タンで待機しているのだがそれでも。 葛藤していると返信がようやくきた。今どこにいますか。どうしよう、今更だけれど帰ろうかな。すごく怒るだろうけど嘘をついた私が悪いんだ。よなあ。ため息。 「あの」 「はい」 携帯とにらめっこしていると影がかかった。見上げると黒髪の男性がこちらの表情をうかがっている。 「道に迷ったんですか」 「あっ、そうじゃなくて、君、あの、」 「…不審者?」 「違う違う、その、A…、さん?」 びくりとした。 何故、いやメール送信した直後に携帯と睨み合い始めるから、それだけ、あと長髪…で、男ですよ私。出来たらごまかそう、としたらじゃあ君がAさんだね、と彼は笑った。あれえ。ああ今墓穴掘ったかもしれないかもしれない。 「認めますけど、…怒ってませんか」 「何を?」 「…あー、性別偽証」 「ああー、まあ別にいいんじゃないかな。ネット世界だし。大丈夫だよ」 それより今日は何処に行きたい?と無邪気に笑う彼を見て苦笑した後に、まずはお名前を、と尋ねた。 090811/フロムK |