笑顔が好きだ、と思う。それを口にすると決まって鉢屋三郎の機嫌が悪くなるのでつぐんでいる。しかし一番好きなのはいつもの鉢屋三郎が作る不破雷蔵の笑顔じゃなくて、時々見せるふわりとした笑顔なんだと言ってもいいんだけど。きっとあれは不破雷蔵じゃなくて鉢屋三郎だろう。稀に見せる困った顔も、もっと珍しい不機嫌な顔も、鉢屋三郎。そう考えたら人の笑顔とかどうとか忘れたから、あれ、イコール、不破雷蔵が一番好きなのは鉢屋三郎なんじゃないかなあ。


「つまり、雷蔵は私を愛していると言うわけだ。以上、ぜーんぶ鉢屋三郎でした。」

「人が今日の昼食を悩んでいる最中に変な独白を付けないでくれるかい。
今日は豆腐ハンバーグにするかぶりの照り焼きにするか、本当に、本気で悩んでいるんだ。」

「冷たい」

 でもめげない、と笑顔を張り付けたら苦虫を潰したような顔を向けられた。無視。ちなみに私は焼き肉定食にするつもりである。給食のおばちゃんの気分でランダムに決まる三つの選択肢の中で結構前から悩んでいる雷蔵を関心してから私はそれで、と続けた。

「でももし不破雷蔵が泣き顔を好きだったら、それも結論は結局鉢屋三郎が好き、になる。何故なら大好きな泣き顔を持たない鉢屋三郎の泣き顔が見たいと執着するから。
ね?雷蔵、聞いてる?」

「君ギャグで泣くじゃない」

「世の中には目薬という便利かつ手軽なものがあってね」

「あーわかったわかった少し黙ってておくれ」

 簡単にあしらわれた。かなりの確率でいらついている雷蔵に喉を潰されると思ったので「酷い、感嘆符。」をごくりと唾とともに飲み下す。悲しいなあ。

「私はただ」

 雷蔵に好かれたいだけなのに。ついに昼食をぶりの照り焼きに決めた雷蔵が懐から出した苦無を構えてにっこりと天使のような美微。かわいい。この辺私には真似できない表情なのだ。かわいい。大事なことなので何度でも言おう。かわいい。
 見とれていたら苦無が近付く。雷蔵。なあに三郎。うっかり先っちょが刺さっているよ。ああそれはうっかりだね。そういう問題じゃあないんだけどなあ。にこにこと笑いながら苦無を懐にしまい給食食べに行こう、と手を差し出したのでその手を取る。怒ってる、と聞いたら別にいつものことじゃない、と手に力が入った。「ねえどうしたら好いてくれる」雷蔵の顔を下から覗き込むと雷蔵から挑戦状がひとつ。「そこまで言うなら本気で泣いてみれば?」。






090808/きみとぼくのちがいについて

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