※現代



 お邪魔します、
 聞き慣れた幼い声が僕の部屋に響く。対して広くもない、適当にやりくりできるくらいの価格で手に入れたアパート、というかマンション。僕にはアパートもマンションも団地も変わらないような気がするけど、この間兵助くんに言ったら怒られた。ちなみに兵助くんは団地住まい。

 どうぞーと招き入れソファに腰を下ろすと綾ちゃんが向かい側のソファに座ろうとしたのでこちら側に手招きする。おいでなさいよ綾ちゃん。綾ちゃんはさして断る様子もなく眠そうに首を傾げてから僕が座っているソファの端っこに座った。ちんまりしててなんかかわいいなあ。

「今日は何しようか」

「…タカ丸さん、宿題終わりました?」

「ぜんっぜん」

「じゃあそれやって、終わり次第外に行きましょうか」

 テーブルに置いてある筆記用具達を細い細い指で指差してから綾ちゃんは鞄からポテトチップス(コとイとケとヤのうすしお)を一袋取り出す。ばりっと勢いよく開けたがばあんと撒き散らすことはなく綾ちゃんは平然とポテトチップスを口に運んだ。ぱりぱり。

「おいしい?」

「のりしおが無かったのですがまあこれはこれで」

「よかったねえ」

「食べますか」

 少しだけ、すこーしだけ嬉しそうに綾ちゃんはひとつポテトチップスを摘んで僕の口へ。差し出されたポテトチップスを食べると案外しょっぱくて、少し顔をしかめた。それを見ていた綾ちゃんは無表情でそれを口に運ぶ。ぱり、ぱり、ぱりり、割れる度に塩が飛んで、あー、僕の部屋なんだけど、なあ。

「綾ちゃんもーちょっと静かに食べてちょーだい」

「何故ですか」

「塩が飛ぶんだよ」

 そうですか。綾ちゃんの口の端に付いたポテトチップスの破片を取ってぱくり、食べた。ぢりっと塩が口の中に広がってこれを綾ちゃんもあじわっているのかと思うと。(ぞくぞくした)(ないしょ、ね)
 いつもの通りあまり気にしないんだろうなあと宿題のページをひとつめくる。全く。わからないな!綾ちゃんを見やると思い付いたように咀嚼していた動きを止めた。

「タカ丸さん、じゃあ、そちら側を食べてください」

「え」

「さ、早く」

 途中まで食べて小さくなったじゃがいも(品種改良でない)のかけらをくわえる綾ちゃんをみて、ついがっついたのは、これも内緒のはなし。






090630/噂の袋菓子

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -