この人はいつ私に落ちるのだろうか。最近になって考えた。私はこの人が本気で好きだと気付いてしまったし、うん。

 細く伸びた指がさらさらと私の髪をすいている。くるくる絡めて、でも決して視線を寄越さずに、先生は紙面に向かいながら膝の上の私を構うことさえ忘れない。何というか、優しい。でも冷たい。ちらりと指が視界に入ったので反射的にがしりと掴んでしまった。先生は何も言わなかったけれど、私としては案外勇気を出したのですよ。ねえ先生。ばか。じいっとその細い指を見て綺麗にまあるく整えられた爪をそっと撫でた。この指でこの人はどれくらい××したのだろう、考えたくもないですが、私よりも確実に××しているだろうなあとか思ってたらふつりと疚しい考えが浮かんでしまった、やばい、かみ、たい。
 噛んでぐちゃぐちゃに甘く愛したい。一度考えてしまえば人間とは簡単なもので何処から出てきたとでも言いたいくらい沸々と思考が蝕まれる。スポンジが膨らんでいくかのような勢いで、それは煮詰まった果物のようにぐつぐつと煮えている。噛みたい。かみたい。

「先生」

「なんだい」

「かみたい、です」

「何を言うか」

「せんせえ、」

 とびきり甘い声を出したら先生はくすりとこの指の何処がいいの、と笑った。それ、別にかんでもよいということですよね。ぱくり。噛むと言うよりも口に入れて、みた。この指で、この手で、××されたい。不埒。怒られてしまうわなあ。
 唐突にぐい、と口の中で先生の指が動いたので、ん、という鼻の抜けたような声が出た。

「はにするんれす」

「利吉くんは、かわいいなあ」

 私の口内で指を動かしながら反対の手で頭を撫でられる。猫を撫でるように優しく優しく、流れに沿ってよしよしと。
 この分ならあと数ヶ月でしょうか。何年でもいいですが、私は先生が落ちてくるのを待ってますから。






090630/待ってますから
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