「あつ!」

 味噌汁を啜っていた伊作が声を上げる。
 なにやってんだ、と水を差し出すと伊作が水を受け取り口に含んだ…と同時にぱたぱたと水を零す。あーあー何やってんだこいつは。しかしそんな大量ではなかったし舌が痛いのか伊作は気にする様子もなく、どこから出したか塗り薬を差し出した。

「留さん」

 それを受け取り人差し指で掬う。

「ほら、口開けろ」

「あー」

 ねち、と指を口に突っ込むと伊作の舌が逃げる。…じれったい。逃げたらわからんだろうが。火傷しているらしい舌を確かめてから伊作が持っていた薬を塗りたくるとびくびく体が跳ねた。痛いらしい。
 猫舌なんだから少しは気をつけててもいいはずなんだが…そのへんはさすが不幸、いや保険委員長と言うべきか。

「いはいよほめはぶろー…」

「自業自得だ、我慢しろ」

「んー」

 口から指を引き抜いてさっき零れた水を拭いていると向かい側で焼き魚をつついていた小平太がけらけらと笑った。

「なんかさー、留三郎は飼い主で伊作は猫みたいだよな」

「なんだそれ」

「だって口に指突っ込むとかさー見ててほほえましいみたいな!」

 な!仙ちゃん!仙蔵に呼び掛けるとにやりと怪しい笑みの後にああ、小平太にしては的を射てる発言だ、とくつくつ喉を鳴らした。長次も、と問われた長次も無言で頷く。

「おい小平太…」

「ちょ、僕たちはそんなじゃなくて…文次郎、君はわかってくれるよね!?」

 焦った伊作が文次郎に話を振ると口に飯粒を付け箸でこちらを指しながら(行儀が悪いな)文次郎が口を開く。嫌な予感。

「恋人同士なんじゃないのか?」

「ぶはっ」

「文次郎てめえ何、言っ…!」

「違うのか?」

 いや違くはないがそうではなく、ああややこしい!
 傑作だなこれは、おめでとういさっくん!、…めでたい、前からだろう。
 ああもう思い思いに話すなしかもここは食堂だおまえらだけじゃない。さっきから周りの視線が痛いほど突き刺さっていてだな…いやその前に何故知ってる!?

「そりゃあ」

「あれだけ空気を醸し出せば」

「嫌でも」

「…」

 四人の言葉で溜め息をつくと伊作が顔を真っ赤にして俺の袖口を握っていた。何がしたいんだ。
よーく考えた後(というか沈黙の後)に伊作がごもりながら口を開く。

「その、ええと、留がだいすきだよ!」

 墓穴を。






090510/神のみぞ知る

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