※赤ずきん



 花を摘みに来ていた赤ずきんは、女子供かと思っていたがそんなことはなく、青年であった。女と間違ってもおかしくないくらい美しい見目と、猟師と言ってもおかしくないくらい優れた銃の腕前が、相反して何か禁忌を見ているようだと噂されていたのをあとから知った。食事を済ませたばかりの俺の前に現れたそいつを食べようとも思わず(見た目がどうとかじゃない、単純に腹が減っていなかったのだ)、会話を交わしたらなんだかなつかれてしまい、俺もなんだか数週間に一度の話をするのが楽しみになっている。俺が一匹狼だからだろう。自覚はしていなかったがコミュニケーションが足りていないのかもしれない。そのわりに名前も知らないが。俺が知っていることはごくごく小さなことだけ。俺が教えていることも、数える程度しかありはしない。

「花を摘んで何をするんだ?」

「友人が医者だから、差し入れをするんだ。花を持っていくと菓子を貰える」

「なるほど」

 時々子供っぽいことも言うからギャップに死にそうになった。なんか胸が苦しい。ぎゅうってなってる。今度裏山の木の実を持ってこよう。喜んでくれたら嬉しい。

 しかしそれと相反するようによぎる思考は、食欲であった。ふつふつと沸騰寸前まで高められて、そのまま。やばいなあ。とは思いつつ、俺は最後まで耐えて見せるだろう。いや、でも、耳だけでも食べてしまおうか。綺麗な形だ。赤ずきんは俺がどんな気持ちで見つめて、どんな気持ちで思いとどまっているかも知らずに、そこらのおっさん(猟師)より私の方が、とか、この間焼いたパンは上手くできたから今度持ってくる、とか、どうでもいい話をしている。
 いつ話しても久しぶりと感じさせないような態度で接してくるから、俺も気にすることはない。ただ日が空いたということはその分俺の欲求も増しているわけで。(満タンなのは睡眠欲くらいだ。)
 (いい匂いもするものですから。)(食べてしまってもよろしいでしょうか。)(味見だけでもいい。)(どうか、御慈悲を。)

 聞いてるのか、と尋ねられて現実に引き戻される。聞いてる。お前の聞き逃しようもない綺麗な声。唇の動き。指先の運び。一つも溢さず追っていることを、知らないのか。(知られたくもないけど。)

 いつか彼のちらつかせる欲望を断ち切る鋏でもって理性の糸を切られてしまいそうだ。他の肉を食べればいいがそうはいかない。彼と出会ったその瞬間から、彼以外の肉は食べたくないから。例え死んでしまうことになろうとて。俺は草食系の狼として生きていこう。






121130/お前を食べてしまうのだ。

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