戻れなくなってしまったのだと思った。そう感じ取れたのは随分と遅くて、もう取り返しはつかない。どうしようかと尋ねても応えはなく。なんだかとても寂しい気がしたけど、殊更追求するのも変な感じがして口をつぐむ。三之助は何を考えているのかよくわからない顔で、ぼんやりとしていた。任務帰りのこと。数をこなして、進級するという演習は簡単なもので、少しの泥棒と逃走。その予定だった。

 だが今目の前に転がっているのは後頭部を砕かれた死体だ。冷静に、急所を狙って殺されたわけではなく土壇場の一撃で死んでいる。殺したのは三之助であって、僕ではない。動機はあった。僕を護ってくれたのだ。護られてばかりで、自分が嫌になる。いつもそう。誰かしら、僕を庇う。不幸気質を哀れむ。そんなのはもう懲り懲りだ。見返してやろうと意気込んでいたのに、僕は彼の手を汚しただけ。
 迷子になった三之助が悪い。僕は悪くない。何もしてない。勝手にやったんだよ。だから先生に怒られるのも、僕じゃない。そう言い聞かせてみても罪悪感は募る。どうすればいい。僕に出来ることを言って欲しい。許してほしい。反り血をべっとりと全身に浴びた彼は泣きそうになる僕に気付いているのかいないのか、はたまた気にしていないのか、その振りか、わからない。ようやく動いたと思ったら、死体を邪魔そうに足で蹴った。
 怪我はないよね。いつもと変わらない声で膝をつく。三之助のおかげで、ないよ。それならよかった。

「じゃあ早くここを去ろう。時期に増援も、先生達も来る。気付かれない内に逃げてしまえばいいよ」

 着いて来いと言うように背を向けて、目的地の忍術学園とは逸れた方向に走り出した。戻れなくなってしまったのは、場所だけではない。彼の心の像も同じく。静かな所で一緒に暮らそう。そう嬉しそうに三之助が言って、振り返らないその背中を追う。
 みんな心配するだろうね。きっと藤内なんて泣いちゃうだろうなあ。左門は気にしてない様にしていて、気にしいだから探しに来て迷子になってしまったらどうしよう。孫兵は、きっと変わらない。作兵衛は何も言わないけどきっと落ち込む。行動が手に取るように想像できて、くすりと笑った。三之助も察したらしく大丈夫だよ、とだけ言ってまたふらりと方向を変えた。このまま何処に行くんだろう。何処で暮らしていくんだろう。どうやって。
 不安はあった。でも三之助がいるからきっと。ただ、少しだけ僕のふがいなさが心のどこかに引っ掛かって、そのまま落ちない。僕がいなければ彼の将来は約束されていたのに、僕を助けるのは彼以外でもよかっただろうし、むしろ助けられなくてもよかった。そう考えたらなんだかとても情けなくて、僕なんかいなくなってしまえと。だからだろう。三之助に気付かれないようにそっと泣いたのだ。






120919/エリアコンバート

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