※現代



 先輩、チョコバナナと、焼きそばと、りんごあめが食べたいです。待ち合わせ場所に現れた、つんつるてんの浴衣で両袖を捲り上げた綾部は開口一番でそう言った。腕に止まった蚊を思いきり叩き殺す。(ちなみに僕は浴衣ではなくハーフパンツとティーシャツだ。)僕に奢れと?財布持ってきてないのでお願いします。…手加減してね。なんて、他愛の無さそうに見えて僕の財布に大打撃を残しつつ。
 屋台の食べ物なんて不衛生なのによく食べる気になるなあ。僕は絶対食べたくない。などと喧嘩が勃発しそうな発言は我慢する。なんてったって今日はデートだから。頭の中で唱えてみた。幸せ!
 学校が違う綾部とはただでさえ予定が会わなくて、会えないことが多い。会えると思ったら予定が変わった、なんてことは日常茶飯事であり、会えたと思っても数時間で解散ということもしばしば。(外野から僕の不運のせいだという意見もあった。)(だとしたら死にたい。)そんな僕たちがこうやってデートしているなんてつまり。奇跡に近いわけで。なんだか自然とにやついてしまうこの表情筋がにくい。

 とりあえず。屋台の並んだ通りに入ってすぐの場所に並んでいた、チョコレートに浸けてカラフルなチョコレートスプレーと、銀色の丸いつぶつぶ(名前なんだっけ?)をかけられたチョコバナナを買い与えて久しぶりに近況報告をする。僕は受験生で、綾部は一年生だ。勉強の話をまちまちとして、焼きそばとたこ焼きを追加。たこ焼きを一口で押し込んだら、口の中を盛大に火傷した。皮が剥けるだろうなこれ。別にいいけど。なんてったってデートだし。

「受験勉強もめんどくさいけど、綾部の宿題も嫌だね」

「ワークが二冊と読書感想文ですよ。小学生みたいでしょう」

「本、何読んだの?」

「桃太郎です。」

 面白くない会話しか出来ないのは、いつもだ。綾部も遊んでいるときぐらい勉強のことなんて忘れたいだろうに。もうちょっと会話レベルが高ければよかったなあ…。露骨に嫌そうにされたらめげる、と思いつつも綾部はそういった不満だとかいろんな感情全部、表に見せることはない。本当に嫌になったら帰るか別行動を取りそうな性格だから、まあ、まだセーフなのだろうか。
 綾部が黙々と焼きそばの後のお好み焼きを食べているのを後目に少し食べ終わるのに時間がかかるかな?と金魚すくいに挑戦してみる。多分すくう前にこのモナカのポイは破れるだろうと踏んでいたが、一匹取れた。(久しぶりに不幸じゃない!と思っていたら隣で取れていなかった人は金魚は二匹、無料で貰っていて…とりあえず見なかったことにした。)

「綾部、あげる」

「食べろということですか?」

「そんなわけないだろ。」

 冗談です。綾部の手首にぶら下げられた金魚は、きっと明日には死んでしまうんだろう。それでもいいんだ。今この瞬間の綾部がかわいいから。涙を飲む気持ちでりんごあめを買う。大きいのだと食べづらいから姫林檎にした。僕の手から直接飴を噛み砕く様子を眺めつつ、食べ終わったゴミを乱雑に置かれたビニール袋に落とす。分別しろよ。
 ぼんやりと薄暗い中、ぱ、と綾部の顔がよく見える明るさになった。あ。もうそんな時間経ってたんだ。どおん、と空気の振動が伝わる。もっとかっこよくスマートに生きれるようになりたい。花火がよく見える場所に連れていってあげたかったな。少し意気消沈する僕。の、汗ばんでべたべたした腕をつかんで、今ならかき氷空いてると思いますよ、と綾部はひめりんごあめを食べきってそう言った。
 あれ。

「…綾部、もしかして楽しい?」

「当たり前でしょう。」

 デートしてるんですから。そんなに大きくもない花火に照らされる控えめな笑顔を、めいっぱい抱き締めてあげたくなる。人目に付くところは嫌がるから、帰る時に僕の部屋まで誘って、それから。






120825/するりとかるくなわばりほどく

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