※現代



 新しくできたクレープ屋さんのストロベリーがおいしいらしい。
 誰から聞いたか。伊作からの情報だ。伊作は保健委員の乱太郎から、乱太郎は金持ちで食いしん坊であり俺と同じ用具委員のしんべヱから、しんべヱは四年の電波穴堀り綾部から聞き、綾部は久々知に誘われて一緒に食べ、久々知はその店で同級生の竹谷がアルバイトしているから様子見に行ったらしい。その他物凄い広がりを見せる口コミを聞く限りこの学園は大層仲が良いなあと思わざるを得なかった。

「うわあ、おいしそう!」

 至る経路を思い出しつつ伊作と雑談していたら、噂のクレープ屋は、よく目に留まる交差点の宝くじ売り場が潰れた跡地みたいな場所にあった。受け渡し式らしくメニューがその手前に看板として出されていて、写真写りはとてもいい。なるほど、うまそう。小走りで横断歩道を渡りきった伊作を見咎めて狭い店内を覗けば、ざんばらな髪の毛をカチューシャで上げている見慣れない格好の竹谷がバナナをつまみ食いしていた。おい。

「いらっしゃいませー!今店長買い出し行ってるんで今なら盛りますよ!」

 自分のしていることに罪悪感はない!と顔に書いてある。いやいや。仮にも仕事中なんだから。察したらしい竹谷は、お客さんが来たらひとのみにするんで大丈夫です、とまたもバナナを一切れ口に放り込んだ。俺たちも客だろ。まあそこはご容赦ください。

「留三郎は何にする?」

 俺は別にお前の付き添いなんだけど。じゃあタピオカのミルクティーで、と三百五十円を出した。アイサー!と(クレープ屋に似つかわしくない)返事を寄越し、タピオカの、入ったカップにミルクティーを注ぐ。伊作は?ストロベリー食べに来たんだよ?そうだった。
 竹谷がタピオカミルクティーにホイップとアイスを乗っけて寄越す。望んでない。嫌がらせかよ。しかし竹谷に悪気はないらしくニコニコしながらストロベリークレープを作り始めていた。甘い匂いがふわり。クレープ生地を手慣れたように焼く竹谷は、重なっているストックではなくわざわざ焼いてくれるようで。
 財布を出すのに時間がかかる伊作にカップを押し付け、クレープ代も出す。

「給料日だから奢ってやるよ」

「ええ、いいよ、クラスの女の子に怒られちゃうもん」

「なんで?」

「善法寺くんがいるから食満くん彼女できないって」

「心配されなくても要らん。」

 女なんてめんどくせえし。
 一口飲んでいい?、と言うのでじゃあ俺も、と盛りに盛られて原型を見失っているクレープを受け取ってそのままかじりついた。あっ、ま。竹谷がまたのお越しをお待ちしてまーす!と声を作るのに手を振って、行儀は悪いが歩きながら食べる。絶対溢すから、溢れそうなところをかじってやるのだ。俺やさしい。
 伊作はタピオカ飲むの下手くそだなあ。(タピオカは好きなようだがよく口の端から垂れそうになってるのを拭うところを見る。飲まなきゃいいのに。)今も垂れてる。親指でもって拭ってからそのまま舐めた。

 伊作がタピオカを二つ吸い込むのを見届けてからクレープと交換して、太いストローにかじりつく。口の中をミルクティーで洗っても、甘いことには変わりなかった。

「留三郎、最後に尻尾食べてね」

「じゃあこれ上の部分食えよな」

 あと食べ終わったらケンタ行こう。塩チキン食いたい。…甘いもの苦手なら無理しなきゃいいのに。ぼやく伊作がなんだかかわいくて頭をくしゃくしゃ撫でたら、揺すられてクレープの苺が一粒落ちた。鳩の餌になるだろうか。






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