※数年後



 私の同級生が、先輩を殺してしまったそうです。好きなのに、任務が先輩に被ってしまったから。卒業してないなら拒否も出来たでしょうに、かわいそう、そして惨め。あいするひとをそのてでなんて、とんだお笑い草の笑い話ですよね。物語悲劇の主人公みたい。しかし先輩も殺されてやるなんて優しすぎるやもしれません。あんなに、厳しいって言われてたのに、結局のところ人は見かけによらないみたいですね。

 私たちも今同じ状況なのではないかとはさすがに躊躇って、言わなかった。だって完璧に今から殺し合いをします宣言になってしまう。それくらいの空気は読める。ただ助かったのは、同級生みたく任務の対象が先輩自身なわけではないところ。私はこの場所を通る何もかもの足止めをすればいいだけ。鼠一匹と言わず虫一匹も。ただ先輩相手にそれだけで済むとは思ってないけど。そっと先輩が持っている忍者にしては長い刀を見た。綺麗な刃ではない。いくら殺したのだろうか。(まあ、見られた人とかたまたま居合わせてしまった女子供とかか。用心深いから。)

「三十秒でも稼げればいいので、任務はもうクリアしました。あとは煮るなり焼くなり何をしてもらっても構わないのですが。」

「いや、いい。俺はそんな急がなくても困らない。数年おいても別にいい。俺が自主的にしたいことだから」

 まだ誰かを殺しに行くんですね。私もそうなんですけど。この足止め任務は高額且つ知ってる人だったからとりあえず受けただけでこんな面倒なことになるならやめとけばよかったかな。綾部はどうしてここにいるの、と顔に書いてあったので少し困った。いくら先輩だからとはいえ。言えない。
 ほら、聞いたことがあるでしょう。同じ顔を使って逃げ続ける忍者の、なんでしたっけ、それみたいなもの。綾部喜八郎は偽物です。本物は存在しない。全部嘘なんですから。私はもう三人目の綾部喜八郎なんで、貴方との触れ合いも何もない。今日が初対面なんです。びっくりでしょう?はじめまして、久々知先輩。
 盛大な嘘をついてみた。どこからどこまでが嘘なのかは秘密だけど。それに対して興味もなさそうにため息をついて反射が眩しかった刀をすらりと鞘にしまった。忍者より侍が似合う人。

「じゃあお前は綾部喜八郎ではない訳だ」

「そうですね」

「すぐに嘘だって白状したらお前が隠してる暗器も、辺りに漂う毒も許してやる」

 そう言ってジャラジャラと武器を捨てた久々知先輩は、私との距離を詰めて軽く唇に触れる。手が冷たい。乾いた唇の皮を湿らせるように舐めたら指まで舐めてしまった。猛毒の味がする。六年かけて慣らされたこの体には意味のないもの。キスされるかと思った。
 すべてのことは当たり前ではありません。すべてのことは奇跡のようなものです。だから。今この私とのやりとりを弱さと思わないで。(私がなんで学園の生徒だった人に効かない毒を辺りに撒き散らして巡回したのか、とか。)(弱いんじゃなくて、多分私にも情というものがあったのだ。)人間の心はまだ持っていたいから。






120527/確かにここで叫んでいるから

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