私、男の子に産まれたかった。男の子だったら所詮くの一なんて言われることなくって、大きい仕事もいっぱい依頼されて、それでもって、トモミちゃんのこと幸せに出来るんだもの。男の子はずるい。私も男の子になりたい。ねえ。どうせ貴方私に殺されるんだから男である必要なんてないでしょ。私にちょうだいよ。男の子である権利を、ください。トモミちゃんを守れるだけ。いいでしょう。ちょっと、気絶なんか、してんじゃ、ねえよ。

「ユキちゃん、もうその人死んでるわ」

 掃除をしながら軽く言えた過去がデジャヴしていた。あんなにくの一が楽しそうに見えた。そんなものに意味はなかったのに。無邪気でいれた頃。もう無垢ではいられない。無知ぶるのにももう疲れた。三半規管がぐるぐるして嘔吐感が増す。

「もういいの」

 トモミちゃんが私の手に手を重ねてくれたことで、ようやく止まる。白くて細い指がどろどろした赤に濡れる。汚くなっちゃう。離して。(うそ。離さないで。捕まえてて。)愛して。
 そんなに無理して男の子になろうとしないでいいよ。ね。私だって、ユキちゃんのこと、好きなんだから。女の子だって、もちろん男の子になっちゃっても、猫になっても、その辺の石になってしまっても、好き。

 私だってトモミちゃんが何であってもいい。これならトモミちゃんが男の子でもよかったのに。どちらかがそうだったら子供だってつくってあげられたのに。まあそんな無償でトモミちゃんの愛情を受けられる赤ん坊なんて出来たら、私は自分でお腹を割くし、その前にセックスしないけどね。心からそう思ったので言い切ってトモミちゃんの様子を伺ったら少し考え込んだあとに、それもそうね、と笑った。






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