「何してるの」

 ふらふらと掘り終えた穴を一つずつ落とし穴として機能するようにカモフラージュして回っていたら、その中にあまり見慣れない薄い緑の制服がふわふわと目に入った。穴の中が植物で埋まったみたいだなあと思って覗き込むと毒虫で有名なのがもぞもぞ、たす一。ジュンコちゃん。しゅるしゅる音をたてているのですぐわかる。慣れない穴の中を警戒して舌を出しているようだ。

「あ、綾部先輩助けてください」

 ジュンコちゃんを構いつつ、伊賀崎が(はたして名前はこれであっているのだろうか)、声をかけてきた。なんで名前を。そりゃあ、手鋤と踏鋤二刀流なんて知ってる限り綾部先輩しかいません。へえ。興味ないけど、とは聞いた手前言わずに上がれないなら掘ればいいよ、と手鋤を差し出した。

「こんなとこ上手く掘れるの綾部先輩か七松先輩くらいですよ」

「七松先輩のは塹壕だけど、やってみないとわからないよ」

「いえ」

 僕が掘ったらがらがらっと崩れて埋まります、と言う。手鋤は受け取らずに周りをつついた。確かにこの辺りの土は少しさらさらだし、少し足をかけ下手くそにも土を削ったらしき跡が見える。チャレンジ済みのようだ。ジュンコちゃんに生物委員飼育の犬とか呼んできてもらえばいいのに、と思ったがまだ三年生だし従えてはいないのかもしれないかったので、まあいい。
 仕方がない。土がかからないように気を付けて、あまり関わったことのない三年生の手をとる。少し小さい。

「いったい全体なんでこんなところに」

「死んでしまった子を埋めに来てたら僕が落ちたんです」

 穴の底に虫かごが見えた。春なのに死んじゃったんだね、かわいそうに。羽化に、失敗しちゃって、そのまま。自分のことじゃないのに自分のことのように伊賀崎は顔を伏せる。別に凹ませたかったわけでも追い討ちのつもりもないから少し複雑な気分だ。
 「穴は掘ったことあるかい」「はあ、まあ」いくつか、と今まで入っていた穴を見つめた。こんなに深くないのだとは思うけど、経験があるならそれでいい。受け取ってもらえなかったテッコちゃんでさくさく穴を開けつつ地面を指差した。
 君が死んだときに入りたいと思うやつ、掘ってみて。伊賀崎は何がなんだかわからないように首をかしげて、どういうことですか、と顔全面に書いていた。もっと感情を表さないようにした方がいいのでは?とも、思ったが、そこはまだ下級生だから致し方あるまい。

「それで、その穴に入ってみたとき初めて、今まで埋めてきた子たちがどんな思いかわかるでしょう」

 きらきら見えたら幸せだよ。少しだけ笑いかけた。そういうものを掘ってあげて。ここで会ったのも何かの縁だ。穴を掘って埋める機会が多いなら、少しだけ魔法をかけてあげる。静かに眠っていられるように。コツを少々。
 さきほど見た虫かごは、いつのまにか崩れた穴の中にぶくぶく沈んでいた。






120504/どうか優しい夜空を見ておいて

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