ガゴン、と大きな陶器を落としたような音がした。割れたかとそちらを見たが割れてないようだ。中身が出てないから。そういうギリギリのラインを進むのが勘右衛門の得意技であり、持ち味である。私にはできない。多分壊しきれない、もしくは完全に割ってしまいそうだ。
 最後の一人が逃げ出そうと背中を見せたところに、容赦なく蹴りがいれられて顔面から地面に激突した。痛そ。見物しよう。掴んでいた髪の毛をするりと指の間に逃がした。体術は勘右衛門と八左ヱ門を見てるのが楽しい。兵助はどちらかと言えば武器使用の方が綺麗だし、雷蔵は心理戦だ。私はもちろん、変装からの、である。そのまま引っ張り起こしてボディーブローが一発、くの字に折れたところに、顎の骨が割れそうな勢いのアッパーカットがきまる。あっと思う間も与えずそのまま流れるように鳩尾に肘鉄、右頬にストレートをかまして、まるで格闘ゲームのコンボを見ているような清々しい気持ちだ。最後にもう逃げる余力も意識もない頭を両手でガッチリと抑え、膝を。あ、今回は割れた、と。

「あー終わった終わったー」

 手を相手の服でごしごし拭いて勘右衛門は首の骨を鳴らした。お疲れ、と声をかけてよろけた体を支えた。体力はそんなにあるわけじゃないんだよな。いえいえそちらこそ。相変わらず容赦ないな。そんなことないよ俺如きの凡才、其処ら中をごろごろしているよ。してるわけないだろ、お前みたいな性格悪い腹黒野郎がいたらこの世の中爛れきってる。うっわあ失礼しちゃう。
 さぶろー、なんて、あまあい声で。私を呼ぶな。触るな見るな呼吸をするな。(最後のは流石に冗談だが。)勘右衛門は満足そうに喉の奥でくつくつと笑って、耳元に、まるで猫みたく顔を擦り寄せた。汗臭くないか。やめてほしいんだが。

「あ、そうそうついでに今日の実習、三郎の名前で登録してあるから休んでていいよ」

「なんでまた急に」

「え?うーん、三郎のこと愛してるからかな?」

「…ソリャドーモ」

 嘘だって、ただそんな気分だったから、とへらへらと表情筋をゆるゆるにして手を振った背中が滲んで見えなくなってしまった。ああ、じゃあやることなくなったな。折角着替えて出てきたのに一人いたぶって、おしまい。つまらん。
 二度寝しよう。きちっと縛られていた頭巾を取れば、雷蔵の匂いによく似た私の匂いが微かにした。眠い。このまま眠ってしまいたい。
 帰って布団を敷かないまま寝てたらいつのまにか雷蔵とか八左ヱ門とか平助がひいて寝かせられた大規模実習の時を思い出す。今日もまた部屋に戻ったら四人が笑ってて、そこにこっそりと混ぜてもらえればいい。そんなこと、もうないけど。何故なら勘右衛門が俺のこと愛しちゃってるから。お前も忍者ならそんなくっだらないこと言ってんじゃねえよ。






120401/げてもの

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