接触が多い。というか多くなった気がする。数年前まではただなついてくれているな、とそれに抗わず拙い子供の愛として受け取っていた。だがしかし、最近なにかと理由をつけては私に触れ、撫でて、まるで犬のようになってしまった。この場合犬のように扱われているのは私のような気もするが、構ってほしいと言わんばかりに寄ってくるので。見えない耳と尻尾が動く気配も感じられるくらい酷似してる。なんか、いつのまに、いつからこんな肉欲にまみれた愛になっていたのやら。

「やだなあ、もちろん一目見たときからですよ。」マセガキかよ。

「はじめてお会いしたときの土井先生はまだ教師に慣れてなくて微笑ましかったですよね」お前何歳の時でどこから目線だよ。

 等々少し思考の言葉遣いが汚くなってしまう発言をいただいたが、この一年間、は組の相手をしている私は海よりも広い広い寛大な心の持ち主だったので、無視。
 私の肩を枕にしながら、後ろから抱き込むようにする利吉くんは私の後を着いてまわるカルガモの子供のようになっている。(悪く言えば金魚のふんというやつ。)先程も、昼食の時に隣を陣取り、かまぼこ食べてあげますよ、と目をきらきらさせて口を開けた。なんで嬉しそうなんだろうと思いつつ、もちろん、食堂のおばちゃんに見つからないように手早く突っ込んであげたが。
 急に何があったんだろう。変なものでも食べたのかと、心配になってきた。本当につい最近のことなのだ。その前まではいい子を演じていてくれたのに。

「土井先生は」

 押しに弱いと聞いたものですから。
 利吉くんの、言葉を変なとこで切る癖。かっこつけてるみたいであんまり好きじゃない。

「誰から聞いたの」

「きり丸です」

「…」

 このやろう。ときり丸を今本気で呪ってしまった。よくない。いくら出したのか気になるところなのであとで少し探っておこう。どうせ酷い金額なんじゃないかな。利吉くん、変なとこでバカだから。

「なのでこれから引いて駄目なら押してみる感じで」

「逆だ!」

「それくらい本気なんですよ。十九も近くなってきましたし、心機一転、私は土井先生を落とせるよう精進いたします」

 周りに何て言われても、私の気持ちは変わらない。土井先生が私を嫌いでも。
 (嫌いというかむしろ好きな部類なんだけど調子乗るから言わないだけで。)

 拒絶をいとも容易く避けて胸元に飛び込んで来るので仕方なく頭を撫でてやる。すこし恥ずかしいんだけど。こんなとこ山田先生に見られて日には死ぬんじゃないか。というか死ぬ。ぐっと肩を押しやったがそれ以上の力で抱きつかれたので意味はなかった。
 先生、ねえ先生。私も生徒ならよかったのに。朝は起こして、ごはんを作って、風呂を追い焚きして、一緒に寝て。すべて。私がいなければ生きていけないように出来たのに。(それじゃあ生徒というより、とぼんやり思ったがややこしくなるので言わない。)先生、私のこと殴らないでしょう?殴れませんよね。蹴れませんよね。暴力をふるえない。年下には甘いですもの。教師としては、当たり前ですね。そう思ってました。なのに。今ではそれが。嫌で仕方がない。どんな感情でも私だけを考えてほしい。そのためには私が年上だったり同い年がよかった。でもそんなの、言い訳でしかなくて、私がそんなのものともしないくらいやればいいんですよ。
 吹っ切れたように清々しく笑顔を見せた利吉くんはともすれば肋が折れそうなほど力をいれて、私を見上げている。うっとりと陶酔している眼は、いくらか忍者の仕事で濁ったようにも見えたが純粋極まりない。捕まってしまいそう。それでもいい。
 もう我慢しませんよ。我慢できないのは私だったのかもしれない。だって、首に絡まる無骨な指が、こんなにも愛しい。






120321/ILY

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