実は死んでたんです。ずっと生きてる風を装っていたのです。冗談などでありません。元々の私はもうぐちゃぐちゃのバラバラになっていきました。今も尚、記憶から消え失せる真っ最中でございます。ところで先生おひとつ質問でございますが、まこと不躾とはわかってますが、最近噂の幽霊を知っていますか。情報をぼちぼち集めていたのですが、あなたと関係しているとしか思えないのです。きちんと、納得のいく理由をくださいませんか。それと引き換えに私は、ほんとうのことをお話いたしましょう。いやいや、戯れ言に近いものでございます。そう、例えば、“皆殺しを企てここを荒れ地にしたのはこの鉢屋三郎である。”とか。 「ねえどうにか言ってくださいよ」 また変わった話をしている。今日は何の話、と聞こうかと思ったがどうせ気がすむまで止まらないだろうから放っておくことにする。 「成仏、してください。土井さん。もうあなたはセンセイではない。一般人…ごくありふれた幽霊なのですよ」 (…うるさい。)特に何をするわけではなく握っていた小銭を投げ付けた。ぱしっと軽く受け取って喉で笑うのがうざったくて、舌打ちをついしてしまったが気にすることでもないだろう。冗談ですよ。どこまで、なんてわかっているじゃあありませんか。そう、あなたが思ったところまで。そうそれと、もうひとつ質問して良いですか。しますよ。させてください。今日もよく喋る。雑音が酷い。外は土砂降りである。湿っぽい空気が何もかもを濡らしていた。 「土井先生は俺が戻ってきてうれしいですか」 (そんなはずはないだろうと、わかっているのに聞くのか。そうか。私はなにも言わなかった。表情にも出なかったと思う。) 満足そうに鉢屋は笑って、私の髪を手に取った。顔を、ようやく見る。見慣れない顔をしていたが、恐らく不破雷蔵の上からつけているもの。不破雷蔵。久しぶりの名だ。ええ、ええ。このために私はここに戻ってくるんですよ。ずいぶん嬉しそうに話すのを眺めながら思いを馳せる。 死臭がする土と、血で濡れた木材と、よどんだ雰囲気に包まれたここに。(あなたのために。)忍としては致命的に条件が悪かったのですけど、まあ良いかと思いまして。 理由を尋ねるのはお止めくださいね。意地悪しないでください。わかっているでしょう。ただ言えることといえば。 「あなたの目に映るすべて、壊してしまいたかった」 濁った紫色の夕方に響く。はじめて聞く声みたいな錯覚がして、目をそらした。今日もまだ私はここから抜け出せない。逃げる気もない。鉢屋が持ってきた食べ物のいくつかを(押し付けられる前に)かじり生き長らえる。先生が死んだら、私が名をいただきますね。恐ろしいことを言われた気がしたので死ぬ前にすることが決定した。 ただ、そんなに抵抗するようなものだろうか。どちらにせ死んでいるようなものだ。私が欲しいなら、骨まで貰ってくれるなら。私には、要らない。 120229/閉じ込めてあげよう |