「最近は(忍者も)不景気だよねえ」

 忍者も、の部分を矢羽音にした勘右衛門はリンゴジュースとサイダーを足したものを音をたてて啜る。よくドリンクバーを頼んでは、美味しい組み合わせを探してるんだ、と言いなんの躊躇いもなくごちゃ混ぜにしていた。(手慣れてた。)

「確かに。(雇われ)給料がとにかく安かったり、(殺す人数増やす)残業代も出なかったり、わりに合わないよな」

「この間なんか聞いてない仕事も前提だったし。困るよね。コーヒーも溢されたせいで服びしょびしょだったし。ねえ三郎」

「あれは酷かった…謝罪もない」

 矢羽音を使わずに隠語で話す双忍はポテトにケチャップ大量につけて頬張りながら顔をしかめた。もはやケチャップの味しかしないんじゃないか。
 ちなみにコーヒーとは所謂血生臭い意で、まあ死んでいるのだから謝れるはずもない。八左ヱ門が言い終わったと同時にドリンクバーへと席を立ったのでぼんやりとコーラを飲んでいたが次はなんだろう、と考える。
 「まさかの水。」「いや、またコーラ。」「あえての紅茶もしくはコーヒー。」思案に耽ってたらひょいと鉢屋が顔を覗き込む。「兵助は?」「何が」。さも当たり前かのような口振りで雷蔵が二の句を続けた。

「ハチの次の飲み物」

 所詮似た者同士か。同じこと考えるなよ、と小声で溢したらお前こそ、返された。まあ五年も一緒にいたら似るか。うん。まあいい。

 そうだな。炭酸が好きだから炭酸以外は外そう。ここのドリンクバーの炭酸系はコーラとサイダー、メロンソーダにファンタオレンジ。あとおまけに季節のドリンクが梅しそソーダ。味気ないのが嫌い。同じものを続けては飲まない。変わったものは選択肢に入らないから、おそらく二択。あとは勘だ。シックスセンス。第六感的直感。

「メロンソーダ」

「掛け金は?」

「任せる」

「百円でいいよ」

 妥当な数字すぎてリアリティーがあるなあ。高校生的に。合計三百円。高校生としたら貴重な三百円だが、俺達にとってははした金で、ただの小銭。(摂津のが聞いたら怒り狂いそう。)そんなものに興味はないけど、八左ヱ門の思考ルーチン調べには興味があった。
 八左ヱ門はわかりやすいけど、時々なに考えてんのかわからない時があるよなー。この間は野性動物大量に連れて帰ってきてこっぴどく怒られてたよね。あー、あれすごかった、見てたけど、ハーメルンみたいになってた。会話を適当に聞き流して氷水で口を湿らせる。そうしてるうちに戻ってきた八左ヱ門の手には、体に悪そうな緑の着色料をふんだんに使った(最近のは天然着色料かな?どちらにせよ体に良くはなさそう)メロンソーダらしきものがあった。俺の勝ち。

「三百円じゃ少ないからここ払ってくれ」

「え!ずるい!それなら俺もちゃんと考えたのに!」

「何の話だ?」

 きょとんとした八左ヱ門になんでもないなんでもないと言い聞かせる三郎と雷蔵を眺めながら喚く勘右衛門の口を塞いで静かにさせた。ファミレスでうるさくするなよ。むー、と唸ったがそっと離してやると、悔しい、というオーラを前面に出して頬杖をついた。

 ピピ、とバイブと初期設定のままの着信音が鳴った。ストラップも何もついてない携帯を引っ張り出す。スマフォだ、アップル?いいやドコモ。メールのお知らせであった。電話帳には登録してない、シークレットにされているところに割り振られるメール。表示されたアドレスの、最初だけ見て中身は開かずに既読にした。その様子を見ていた勘右衛門が売れっ子だねーと、笑う。別に。これはスルーしていいやつだからな。(結局死ぬんだし。)(そもそも同級生を殺す依頼など、学園に身を置く以上できる筈がない。ああでも綾部は受けたんだっけか。)(…先輩もか。)
 間髪置かずすぐに八左ヱ門のスライド式携帯が鳴る。シャコ、とちょっと緩くなっている音をさせて携帯とにらめっこしたと思ったら、持ってきたメロンソーダを一口飲んで席を立つ。

「ちょっと便所(依頼いってくる。すぐ戻るから待ってろ)」

「いってら〜」

 さくさくと席の合間を縫って、八左ヱ門は自動ドアを出た瞬間にすぐ見えなくなった。文字どおり、いなくなった。上に飛び上がったかスピードあげたかどちらかはわからないが。とりあえず一般人の目には映らないだろう。

「売れっ子だね?」

「お金ないんだろ、ペットのせいで」

 なるほど、と納得しながら、勘右衛門がシロップの容器を傾ける。「ハチって響ちゃんに似てない?」「誰?」「アイマスの…」会話しながらテーブルの隅から小さい容器を手のひらにたくさん握り込んで、どんどん注ぎ込んでいく。八左ヱ門のメロンソーダには今見た目にはわからないのを良いことにガムシロップが大量に溶けていた。雷蔵がミルクの蓋を開け始め…、多分、八左ヱ門がいなくなったらこいつらはドリンクバーの飲み物すべて注いでブレンドさせるんだろうなあ。意地悪く見た目は分からないように。はやく帰ってきた方がいいよ、と。先程受信したメールの送信者が、弱いことを願うばかりである。

 その前にとりあえず。

「すみません、追加で明太子と大葉の和風スパゲッティと豆腐サラダ」

「うわっほんとに食べるの?お金あったかな…」

「雷蔵の分は私が払ってもいいけど」

「三郎のケチ!俺のも払ってよ!」

「やだよ」






120203/緑色三号

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