※現代



 少し伸びてきた髪を緩くまとめ上げて、床に垂れる水滴をそのままにスウェットだけはいた伊作がベッドに突っ込んだ。濡れるから降りろよ。せめて髪乾かしてからにしろ。露出された脇腹を擽るように撫でたら高い声を上げて飛び起きてベッドから落ちた。なんだお前食うぞ。
 足元に転がった伊作の髪を、畳んだばかりのタオルを拾ってがしがしと拭いてやる。薄い茶色から焦げ茶色に、根本へ向かってのグラデーション。毛先が荒れて故意ではなく、ただ色褪せてしまっているだけなのだが、随分綺麗に見えた。そこまで痛んでいるのかと思えば感触はふわふわとした猫っ毛で気持ちが良い。湿っている髪の匂いを嗅いで、少しだけ鼻先を埋めた。シャンプー今なんだったっけな。ラックス?

「ドライヤーはいいのか?」

「だって留三郎へたくそなんだもん」

「人のって難しいんだよ…」

 自分の髪はすっかり乾いている。ケチ付ける伊作の髪を最後にグシャグシャにして、布団と絡まっていたタートルネックを着せた。その上に羽織るジャージも引っ張り出す。ただでさえ風邪を引きやすい伊作が寮の一部屋でくらいは暖かく快適に過ごせるように。…まあ、伊作の不運はその上をいくから余り意味がないのだが。(なんのためらいなく水道管が破裂したり、風呂のシャワーが水しか出なくなったり。)本人はめっきり馴れてしまって風邪もなにもかもを当たり前かのようにするから、俺の心配が割増になるのも仕方がないだろう。
 アイスとって、と言われる前に飲み物を取るついでに冷凍庫を開けた。伊作はアイスを九割がた風呂上がりに食べる。体温高いのを下げるためかも。入ってたのは最後の一つだった。開けた包装紙をゴミ箱に突っ込む。ごみ捨ては明日俺だ。

「今日のアイスはパピコです」

「わーい」

「一本くれよ」

「仕方がないからあげます。」

「ありがとうございます。」

 寝転がっていた伊作を引っ張り起こしてパピコの片側を持たせてぷちりと千切った。開いた口に、千切ったとこの詰まったアイスを落とす。完全にやってもらう気満々なのがすごい。やってやる俺も悪いのか。うん。まあ。伊作を甘やかす俺が、悪いんだな。別にいいけど。そういう風にしてきたのは。(自業自得というやつです。)
 じゅるじゅると、(寮の冷凍庫は古いからアイスはいつも溶けぎみであり、それのせいで伊作は食べるスピードが速くなっていった。)かじりつきながらいまだジャージを羽織らずに腹を惜しげなく晒す様を見ていたら、そわりと下腹が騒いだ。負担をかけないようにとは思うが、やっぱり思春期という壁は高い。抑えきれない。自慰で済ませろと文次郎には言われたが(あいつは仙蔵の下僕か何かなのだろうか?)、目の前に伊作がいて、触れて、匂いも嗅げる(変態チックになってしまった)のに、我慢しろと言う方が無理に決まっている。そう言い訳しながらアイスを食べ終わった。全然、味わえなかった。俺は伊作より食べるの速いとは自負しているが、今までで最速じゃないかな。どうでもいいか。
 少々触ってもよろしいですか。ええ、仕方ないなあ。明日に響かないくらいにしてね、と笑う伊作に俺も笑って、まだ少し残っているパピコを取り上げて噛み付く。響かないよう、とは言ったが明日は花の土曜日。動けなくても何ら問題はない。アイスはコンビニで買ってきてやろう。値段は(いつも買ってるスーパーより)若干高いけど、しあわせを買えるなら安いもんだ。






120116/アイスクリームシンドローム

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