後日談。学園内は綾部散髪事件で持ちきりだった。髪が長いイコール女装がしやすいと伸ばすやつも多い中、綾部も例に漏れず伸ばしていたのだ。切ったのは、少なくとも彼が入学してから今まで見たことはない。揃えすらしないのは彼一人だけだったために、その衝撃は普通ではなかった。それに加え、バッサリと切られ肩につくかつかないかの長さは端整な顔立ちによく合っていたから割り増しで注目の的になっていた、が、気にする様子は綾部にない。
 そんなとき狙ったようなタイミングで二人一組同じ学年や委員会以外とが参加条件の任務が入ったので、もはや勢いで綾部を誘った。誘ってしまった。まあいいですけど、今お金がないので交通費はいただきますよ。それだけ言って綾部は俺のあとをピクミンみたくついてくる。内容は、ただの人探し。人殺しじゃなくてよかった。そんなんだったらなんで誘ったのか、という疑問でいっぱいで質問どころじゃない。
 綾部は自分からあったことを吹聴しないし、むしろきいても答えないタイプだったので期待しないで「髪どうしたんだ?」、とは、さすがに言えず、さりげなく探っていたら綾部は、ああ、と納得したように自分の前髪をつんだ。そんなわかりやすいかなあ俺。

「何か気にしていると思ったらこれですか。久々知先輩も気になります?皆さん騒いでますけど大した理由はないですよ」

「そ、うなんだ…聞いても怒らない?」

「なんで怒るんですか」

 変なひと、と笑う綾部はとてつもなくかわいい。贔屓目も、若干はあると思うけど噛み殺すように笑う表情は無表情の時より子供っぽくて地上に舞い降りた天使のようである。つられてふふ、と笑った。ああ、もう、かわいいなあ。食べてしまいたい。
 なに笑ってるんですか、と笑顔をしまいこんでむっとした表情ではあるが、怒っているようにみえて全然怒ってない綾部は俺の伸びた髪の先っちょをくん、と少しだけ引っ張る。ごめんごめん、かわいくてつい。話すのやめましょうか。それは困る。なんで困るんですか。…なんでも。鈍感、なのか策略なのか。なでなでと頭を撫でてくしゃりとかき回した。綾部は動物に例えたら猫っぽいけど、習性的にもぐらっぽくもある。俺の言葉に気を悪くするでもなかったが、ひょいっと手をかわされてしまった。

「それで、散髪の理由ですよね。」

「そう。切るような、ことがあったのかと思って」

 恐る恐る、恐々と首をかしげたら綾部はなにかを考え込むように黙りこむ。理由を教えるか教えまいか悩んでいるのか、それとも適当な理由をでっち上げるため考えているのか。わからん。というか綾部はこのまま話をなかったことにしそう。それは困る。

「失恋です」

 へえ。
 失恋。
 …失う恋と書いて?

「…え、っと」

「嘘です」

 こ、混乱してきた…。
 こんがらがってきた俺にとどめを刺すように綾部はもうひとつ、うそですよ、と重ねて少し長さのまばらな髪の毛を耳にかける。視線が動かされないことに気付いてその先を辿ると、目当ての青年を見つけていた。話はこれで終わりか。残念。というかまだ納得してないんだけど。(任務が終わってから話に付き合ってくれるのは、ものすごい機嫌がいいとき以外に皆無であり、今日はもう仕事をしたというだけで無理だろう。ということは検討がつく。)

 教訓。綾部の言うことを信用しようとするのは無意味に近い。






120103/馴れ合い

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