「せんせい、すきです。やっぱり好きです。どんなに考え直しても好きなものは好きなんです。」

 思春期特有の、熱のこもった角膜でこちらを穴が開くくらい見詰めてくる。綾部喜八郎のよう。いつも子供たちにはわからない程度、大人たちにぎりぎりわかるくらいの血の臭いを染み込ませて飄々としている輩が何を言うか。卒業するまでに鼻を慣らしてしまおうとでも。
 その利吉くんをないがしろにするようにテストの採点を終えて、いなくなってしまってやり残した生徒の処分する書類に目を通す。これはもう誰の目にも入らないものだ。誰に殺されたかを、私は知っていた。公言はしない。ただ目の前にいる利吉くんから目を逸らす。
 忍とは、忍者とは、そういうものであった。(例えるならちりめんじゃこ。子供のうちに炒めてしまって。邪魔にならないように、美味しく。)

「五百年は早いよ」

 お決まりの常套句になりつつある。
 五百年生きていられたらいい話だけど、無理だから、これは断っているのだと気付かないのだろうか。たちが悪いな。
 考えてみるくらいはいいんじゃないですか、と小声で呟いたのをかき消すように、もう日を拝むことはない紙束をそっと重ねた。増えて、いるなあ。少しずつ、けれど確かに。

 勘違いだって言い聞かせてここまで逃げてるが、利吉くんは追いかけてくれる。止まらないでいてくれるから少し嬉しい。いつか私から離れてしまうかな、って考えたら石川を思い出した。いなくなってしまった体温も、顔も、声もうろ覚え。記憶はわりと適当。でもそういう関係じゃなかったと(今では)言える。
 私がこのまま逃げて逃げて逃げて逃げ続ければ、引くことのしない利吉くんは追って追い続けるだろう。じゃあ私が止まったら。ここに留まったら、彼はどんな顔をするかな。捕まえてくれるかな。そのときが、私の死ぬときだろう。なんとなく、そうだと思った。






111006/その手伸ばして捕まえてごらんよ!

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