忍者は無感情に生きるもの、と言うよりは感情を圧し殺し口を塞いで息を止めたまま生きるきちんとした人間だ。その点綾部は優秀だった。何も考えないまま穴を掘る。授業を受けたあと暇ができたら土を運ぶ。空腹と眠気をぎりぎりまで溜め込むくらいには競合地帯をぐちゃぐちゃ(いうよりはうつくしい穴だが)にする。睡眠も地面の中でとることもしばしばうかがえた。もぐらか芋虫みたいなやつであった。

 そんなやつが好きだから俺も大概変わっているのだろうか。自分ではよくわからないけども気がつかない内に普通から外れてるのかも。
 ざくざくという音をBGMにそんな感じのことをつらつら喋っていたら綾部が口を開く。「先輩は、不思議ですね、私以上に。」ふむ。自分より不思議だと思っていた相手から以上にと言われるのはこれまた随分(悔しいような)不思議な気持ちになる。不思議だらけのアリスだ。

「そこにいると土かかりませんか」

「綾部に埋められるなら別にいい」

「…」

「冗談だよ」

 それさえも、うそだけど。体が(愛が)重いのは、綾部にとって何の影響も及ばさない。関心くらいしてくれたってバチは当たらないと思うんだけどな。
 そう、俺が生きようが死のうが、されど夜は過ぎる。地球はまわる。季節はめぐる。綾部はなにも変わらない。無垢でも、反してふとどきでもない。体は成長しても内面はからっぽそのまま歩いてきてしまったまま、変わらない。(あるいは足跡を残さない、いたみにも疎くなってしまう進み方だったのだ。二本の棒っきれの様な脚で。十三年間ずっと。)
 私は、怖いだとか寂しいだとかがわからないので、先輩のこともよくわからない、と嘯くように呟いたのを抱きしめてあげられたらよかった。ただ、綾部がそう言った時の表情を見たのは穴の底だけだろう。それすらも闇に飲まれてしまっているなら、せめて夜が受け止めていればいい。






110615/されど夜は過ぎる
空虚

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -