会うたびにすきの一言と持っていた物を差し出す綾部にほとほと疲れ始めている。他の同級生は「かわいいからいいじゃん」「嫌がらせじゃないだろ」「俺がほしい」とか言う辺り、アイツの顔面偏差値は上々だ。静かに(穴掘り的な意味で)してれば顔以外の評価も上がるだろう。
 しかしお前ら、ゴミにしかならないもの(折り紙から化粧道具、武器までジャンルは幅広いが。)を受け渡される私の身にもなってみろ。迷惑極まりないぞ。しかも私も相手を少々気にとめ始めてしまったものだから厄介。意識し始めた日から、それまでゴミ箱一直線だった折り鶴だとか泥団子が押し入れの空いたスペースを埋めているのだ。(雷蔵にも気付かれているのだが、何も言ってこないのが逆に怖い。)(至ってノンケのつもりだったのに。)ほらまた。

「こんにちは。好きです」

「そうかい」

 右手に大きめの花束を持って、左手の手鋤を廊下にからから引きずって現れた。土だらけ。髪のてっぺんから爪先まで汚しているからあとで宛ら犬のように風呂に入り、平滝夜叉丸が床掃除をすると思う。
 挨拶じみてきた好意を流して、顔の土を指で擦った。幾つ掘った?八十八です、鉢屋先輩と語呂合わせして。なるほど。最後の塹壕にはあいらぶはちやって名付けてきました。
 (馬鹿なんだな、こいつは。)ばさ、と揺れるカラフルな花束を見つめる。生える場所が固まってない種類が一本ずつ。を沢山。何処まで行って穴を掘ったのか、というかよくここまで手間のかかることを。

「綺麗でしょう?先輩に似ている花を、集めてみました」

「どの辺りが似ているんだ」

「色とか、雰囲気とか、匂いとかですよ」

 湿った土が太陽を反射して光る。顔の汚れが粗方落ちたところで制服を軽くはたいた。
 あと三十六掘るんです、三郎先輩だから。その前にこれ受け取ってほしくて然々、と右手の花の山を差し出す。あとで乾燥させるか栞にしよう、思ってるだけで口に出さないまま私も手を出した。

「日々変化する私の愛の形です。受け取ってくださいよ。でも」

 普通に渡したら溢れてないみたいですから。投げらればらばらに散らばる花びらと、追加のお菓子(饅頭と煎餅をキャッチした)の乱舞に足をとられる。…掃除するのは私の仕事決定だなこれは。めんどくさい。綾部は満足そうだった。用事は済んだらしく手鋤を肩に担いで、最後に、「今日も先輩がすき」と随分楽しそうに笑ってすれ違う。その姿を目で追う。ああ、もう、なんだかな。小さい背中に俺もすきだよって書いてやりたい。






110404/右手にあいを左手にすきを

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