卒業式が終わってひとしきり騒いだあと。言い換えればアルバムの中身に落書きして卒業証書に巻かれたリボンを鞄に結び付けたあと。胸にある安っぽい偽物の花を、何故か誰も外さなかった。それが不思議で仕方なかった。でも嬉しくて悲しくて僕も外すことは出来ず。散り散りになる僕らを(思い出に残るものは止めてくれないで)、雨は急かすように背中を押す。君たちはもう、ここにいてはいけないんだよ、とひそやかにお別れを後押しした。ぱしっと傘を開くと後ろから三郎が飛び込んでくる。馴れてしまったけれど、最後。

「雷蔵今日歩き?」

「歩き歩き。三郎は…自転車だね」

「後ろ乗せるから傘さしてよ。最後だし、二人で帰ろう」

 鍵を指先にひっかけながら話す三郎の横をクラスの人が手を振って通りすぎる。あんまり話したことない人も仲が良かった三人も関係なく、今日だけは皆平等。仲良くさよなら。自転車置き場の屋根に入った三郎は、僕の鞄と自分の鞄、それとブレザーをカゴに詰め込んだ。

「雷蔵はしばらくバイトするんだっけ」

「うん」

「クラスはけっこうペア作って双忍ってのも多かったけど、八左ヱ門は就職決まってるって。兵助はしばらく学校に残って研修生、勘右衛門は…」

「本人が言いふらしてたよ。どっかの専属でしょ?ていうか三郎、人のそういうのはさあ…」

「だって情報網だもん」

 乗って。鞄が濡れないようにと、ブレザーを上に乗っけて、きりきりと荷台を僕の前に向けた。後ろ向きに跨がって傘を少し傾ける。三郎は合図も何もせずに、慣れた様子でバランスをとりながら校門をくぐり抜ける。
 少ししたらバスが僕たちの隣を走り、追い越された。いつの間にか降っていた雨は少し小雨になっていて、夕日を映し出している。段差で揺れるたびに(あまり意味のなかったけど一応さしている傘をくるくる回しながら、)荷台を掴む手に力を入る。狐の嫁入り。狐そっくりな三郎にぴったりだとぱちりと一回、瞬きをゆっくりしてから、遠くのように見える町(遠回りしたためにあながち嘘でもない)が輝くのを見た。

 いつもより遅くペダルを踏んで、三郎はひたすらに自転車を進めた。このまま行ったら幸せかと聞かれたら、それは多分違う。でもいかなければならないのだ。僕たちはどんな障害物があっても、越えて進まねばならない。けれど、だけど、共に過ごしたこの日々を。今の僕を支えてくれた人に。隣にいてくれた君に。ありがとう。

「雷蔵はさ…私に気を使ってるけど、私には雷蔵を、多分どんなことがあっても殺せない。でも雷蔵はできる。だからギブアンドテイクしよう」

「どんな?」

「情報はタダ。だけど私を殺さないで今みたいなままがいい」

「それだけでいいの」

 三郎はもうちょっと欲張りでいいと思うよ。僕に好きになってほしいとか…やだなんか自意識過剰みたい。ぐらぐらと自転車が揺れたので傘の縁に溜まった雨がこぼれる。あははわかりやすい。


 きっと何も忘れない。色褪せもしない。これは絶対。明日からは血も涙もない非道になろうとて。三郎の背中に体重を預けてみると、それは少しだけ大きい気がした。






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