※現代



 自分で言うのもなんだが、俺はこの辺りでは結構名のある不良である。殴り掛かってくる奴を皆返り討ちにし、間切先輩に寄ってくる雑魚を蹴散らしていたらいつの間にかこんなことになっていた。先輩が止めた時にはちゃんと止まったけど。ほとんど止めないのでボコ殴りが大半だ。今まで止められたのは三回。鬼蜘蛛丸先輩がいたときと、舳丸先輩がいたときと、兵庫さんがいたとき。それっきり。
 今もぺったりとくっついているが間切先輩は何も言わずに歩く。怒ることもないし、もともとこの人は力が強いから俺なんか引っ付けても楽々なのだ(まあ俺よりは弱いが)。でも離れても何も言わない。悲しみも、ちょっとの寂しささえ感じさせない。それが俺は嫌だ。言葉に表せないくらい嫌だ。

「網問、」

「なあに間切先輩」

「そろそろ俺離れしたらどうだ」

 ブレザーから出たフードを引っ張り整えている間切先輩は、随分前から変わらない古びたスニーカーをとんとんと打ち付けた。踵を踏んでいるからそのリズムは、意味のないものなのだろう。太縁の黄色いオシャレ眼鏡がちらちらと光を反射する。反射していて表情はあまりうかがえなかった。
 「先輩?」と聞いてみたらようやく顔が見える。「ほら、お前俺にべったべただろ?」



 (あ)(遠回しに遠回りを重ねて)。もしかすると俺は、今、拒絶されている?そうだったらかなしいかも。
 自分の、ハイカットを見下ろすとさっきまで視界に入っていた間切の細い足が俺の腹に叩き込まれる。ぐ、え。吐き気。次いで腕が物凄い早さで鳩尾を狙ったのでぎりぎり右手で腕を捕らえた。あ、ぶないなあ。ちゃり、とブレザーの袖に隠れたシルバーが、間切と俺の触れてる部分の邪魔をする。あんまり強く握ったら間切痛いかも。鎖の痕、ついちゃう。(それも何だかそそるかもしれない。)しかし間切は即座に腕をぱしりと払ったためそれも杞憂だった。

「いたいんだけど…」

「俯くな変な風に考えんなこのすっとこどっこい」

「謝罪は?」

「んなもんあってたまるか」

 くしゃり、と質の荒れた髪の毛をかいて大きなため息ついた間切は惚れ直すくらい男らしく、仁王立ちを決め込んでからくるりと背を向けて、それでも俺に聞こえるくらいの声で。ピアスがちゃらちゃら揺れる。


「俺は、…、先輩として!友達いないのかと心配してんだよ」


 …。わかったら返事。あ、はい。よろしい。わかったら俺に美味いラーメンを奢れ、と歩き出す間切の隣に急いで並んだ。だってそんなの自分で予防線を張ってるみたいで俺としてはすごく!期待せざるを得ないというか!嬉しいと心配の間にいるんだって思っていい?ねえ?間切?それとも先輩?

「恋人としては、ねえ、恋人としてはどう思ってんの!?」

「でけー声出すな、少なくとも独占欲だけは潤ってる」






110206/惰性的偏愛願望

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