これを飲んでるから頭痛くなるんじゃないかな。そう思った。半分優しさのアレを静かに見つめる。白い。薬剤師から貰っているから、普通のものより少し大きい。その分優しさもきっと大きい。なら、俺はしあわせなのに。飲んで、痛くなくなったことなんてあっただろうか。いやあるはずがない。(反語。)
 べこべこの、普通のペットボトルより柔らかいのに入った水でその優しさを胃に収める。今日は冷えるからぬるくはなかった。コンビニの前で潰す時間が少なくなってきたにも関わらず、偏頭痛は酷くなる一方。慣れているけど。
 でもそれ以上に心臓に優しさが欲しい。痛いから。八左ヱ門を思うこころが痛いから。この症状をやわらげる薬があったらいいのに。多分何粒でもどんな粉でも飲み下す。楽になれるなら、この泣いている心臓を笑顔(と俺は呼んでいる処世術)以外で慰められるなら。


「…なあにハチ」

 髪に指を通す八左ヱ門の顔は朧気で、あとマフラーに隠されていてあまり見えない。(顔を隠した方がいいのだろうけど、酸欠になると頭痛が増すから俺は何もしていない。)死にそうな顔してる、と言われてばれないように唇を噛んだ。

「今日は雨が降ってるし…低気圧のせいで少し酷いだけだから…」

「任務は俺だけで出る。いいよな」

「…気を付けてね」

「飯とアイス買ってくるから、俺の部屋で寝てろよな」

 やだな、苦しそうな顔しないで。別に俺はいくらでも受け止める。依存でも慰めでも憐れみでもなんでもいい。君が俺を見てくれるなら、これはかけがえのない証拠だから。最後に俺の手を少しだけ握ってから、竹谷は着ていたダッフルコートを押し付けて小走りで駅に向かっていった。傘は持ってないから、すぐに八左ヱ門の髪とか服が水分を含むのがよく見えた。
 冬の匂いがする。急激に寒くなった気温は、秋をすっ飛ばしたように静かに冬に。雪になるかもと錯覚させるくらいの温度差で。


 (…帰ろう。)


 その前に一つだけ。後から来る殺しきれてない自我を、俺たち二人を処分でもしようと企んでいるのであろう数匹の鼠を、捕獲して何もなかったかのように沈めなければ。この職業、幸せに生きるには邪魔が多すぎる。(だから何気なく手を突っ込んだダッフルコートの右ポケットには鍵が入っていて、それがたまらなく嬉しかった。)(ハチは俺の機嫌を簡単に治すのが、嬉しかった。)






110121/ハーフジェントルマン

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