伊作は寝起きがよろしくない。生まれながらの低血圧、そんな言葉がぴったり。小平太と文次郎その他もろもろがどう起こそうと部屋に入ってきた輩をぶん投げたりあり得ないくらい眉間にシワを寄せ「今すぐ出ていかないとすぐさま殺す毒殺」と言い切るくらい…らしい。
 俺は同室のよしみというものでそのようなことに一度もあったことはなく、そのような事実を知ったのも少し前の出来事だった。それを周囲に言ったらもうアイツはお前が起こせと怒鳴られたので(必死な様子を見てさすがに可哀想になり)それからはもう俺が起こす係である。

「伊作」

 布団から髪の毛だけをはみ出させる伊作に声をかけて柔らかいともあまり言えない布団を軽く叩いた。もぞもぞと動いた中からひょろりと骨ばった白い腕が伸びたので、ぱしりと受け止めて引き上げる。力の抜いた伊作はさながら操り人形のように俺の胸へと飛び込んだ。

「おはよう」

「…、う…おはよ」

 朝ギレの噂など感じさせない溶けた笑顔でふんわりと俺に擦り寄る。まるで猫。ビスケットみたいな壊れやすさとケーキみたいな甘さと、バニラエッセンスのような雰囲気を纏っている。結び目がほどけた髪に手を差し込んで、まだ覚めきらない目尻に軽くキス。ついでに額と首にも。鎖骨が綺麗に浮き出ていて朝から腰にまとわりつく何かで、俺はダメだと実感した。背中に腕をまわして腰を抱けば、伊作がくすくす笑いながら苦しいよ、と抱き返す。うわ。幸せ。

 そんな甘ったるいはじまりだった。






110101/つめたい辛さにまどろまない

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