同学年、隣の隣のクラスにいる、髪結い斉藤さんの息子タカ丸さんがいる。はたして最近忍術学園に珍しく編入した斉藤タカ丸十五歳男子を同級生と呼ぶのはいかんせん違和感があり、全く慣れない。
 人懐っこい性格のため周りからは頼りない兄といったポジションに落ち着いている。私にとっては言葉で表したくはない、何かだ。言葉にすれば消えてしまうようなやわらかくて壊れやすい砂糖の塊。タカ丸さんは私をそれほど思ってないだろう。接し方が誰でも平等なのがタカ丸さんだ。でも、そんなんじゃだめ。絶対ダメ。許さない。
 貴方を見てるだけで無表情と言われなれている私の顔は力なく緩むんですよ。ねえ。最近じゃあまりにも好きで好きで好きすぎて直視できないけど。

「タカ丸さん、髪が伸びたので整えて貰えますか」

「ん、いいよー。綾部くんの髪の毛ふわふわで土と太陽の匂いがしてて」

 すき。
 後ろからのたったの二文字で、頭の中だとか胸の精神に関わる部分にぶわりと花が咲いたみたいになる。
(恋愛サーキュレーション。循環する恋。決着を付けなければ進まない。終わってしまえばそれまで。しゃきしゃき、と吠える鋏でこの関係まで切られてしまったら慨然としてわんわんと泣き叫ぶんだろうなあ。手が滑って、そのへんにいた人たちみんな手当たり次第に八つ当たりしちゃいそ、う。)

 さて、これが私だ。このどうしようもない愚か者。のべつまくなしに自己淘汰する。私の思いなんてすぐさま削除されればいいのに。


「タカ丸さん」

「ん?」

「私のこと、見ててくださいね。ずっと」

「?うん、これからもよろしくね」

「……はい」

 前触れもなくぱらり、と落ちる藤色があまりにも呆気なくってやさしく目を伏せる。意識を心の内側へ。ありがとう。叶わない恋でも。切なくなるほど好きになった気持ちが、忍者にとって何より不要でも。巡り会えたことがしあわせなの。






101111/思ってた恐れてただけど

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