※現代



 今時古風な、下駄箱に入った手紙(封をしているシールがハートという、恐らくラブレターである)を、特にどうということもなく手にとって、すぐさま隣に入れた。今日がバレンタインデーなわけでもあるまいし。いや、二月十四日だとして受け取るわけでもなくきちんと本人に熨斗つけて返すが。
 クラスで大雑把につるむやつはいる、けども、帰宅や登校を同じくするまでのやつは一人もいない。というか作る気がない。センセイ以外は必要性がない。土井半助さん以外はみんな死ね。口が滑った。

 そんな(どうでもいい)思いを丸々詰める感じで私のではない下駄箱の戸をばたん、と閉めほっぽったローファーを履く。校門を出て少し歩いたくらいで、少し前に見慣れたくせっ毛が揺れていた。運命、なんじゃないかな。

「先生!」

「あ、利吉くん」

「何処に行くんですか?」

「駅前の本屋に行くんだよ。山田先生が受験の資料のまだ買ってないやつ買ってきてくれって。」

「わ、奇遇ですね。私も本屋に行くところだったんです。」

 わざとらしいな!
 自覚しながらも右側についていく。先生は一緒に行くことに疑問はないんですか。普通はなんか、じゃあ一緒に行こっか、とか。それがなくても先生は利吉くんは就職だよね、そろそろ面接練習かな、と極々自然に話してくれるからもう。天然。小悪魔。でも天使。
 先生がもし動物だったら飼い殺してしまうくらい甘やかすし、植物だったら鉢に収まらないくらいの愛情と適量の肥料と水を与えるだろう。食べ物だったら凍らせて永久保存。こんなんじゃ足りない。一番理想的な形は、人間の土井先生を私の側に置いて、私を好いてくれることなのだが、どうにも上手くはいかないようになっている。無理矢理するのも先生の意識を(例として薬などで)操るのも本意ではないから、今はただこうしているだけで。アイムハッピー。
 自分でも重いなあと感じるくらいの考えを口には出さず、会話がなくても居心地が悪くならない空気をいっぱいに吸い込む。(土井先生の匂いとかの方がいいけど、さすがにアブノーマルだ)(自重。)土井先生。小さい声で呼んだけど、先生は私の方を見て首を傾げた。首に噛み付いてみたい。うそ。噛み千切りたい。

「ありがとうございます」

「何が?」

「全部。私の目の前に現れたところから、私に会ってくださったことまで」

 若干の手フェチシズム持ちの私から見て先生の手は完璧だと思う。本当に。他の手などに興味は毛ほどもないが。(土井半助フェチと言われてもいい。)優しさが残酷な先生は、私が触れても怒らないし嫌がらない。「唐突だなあ」、なんて呆れたように笑う先生は二十五歳に見えないくらい幼くて、可愛い。

 出会ったばかりの頃は全然私に興味を持っていなかったから進歩したと、最近ようやく実感する。簡単には行かないけどゆっくり確実に絶対的に独裁者的に進めてはいる。こちらを見てくれる。好きだ。そんな先生が。良い意味で疑らない先生が。先生のすべてが。全部全部欲しい。






101019/ハロチックショートケーキ

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